第86話 山登り

 宿から歩いて30分程度で山道の入口へと着きました。ここからはどんどん山の中へと入っていきます。


「念のため、山ではどんな危険があるかもわからない。間違っても『競争』したり、バラバラに行動しないようにね?」


 サイサリーはあたしとゼフィラの顔を何度も往復しながらそう言いました。


「きっ…、競争なんてしないよ。当たり前だろ? なぁ、スピカ?」


「はっ…はい! スタミナ比べなんてこれっぽっちも考えていませんよ?」


「君たちは……。元気なのはいいけど、元気過ぎるのはちょっと問題かもね?」


「いいじゃねぇか、サイサリー? おかげで、お前みたいな頭でっかちの役目があるってもんだろ?」


「ベラトリクス、君の言葉使いは本当に矯正した方がいいと思うよ?」



 入り口であれこれ言いながら、あたしたちは山道に入っていきました。あたしたちと同じように、高山植物の採取を目的とした冒険家もいるようなので、路はしっかり整備されています。


 気温はそれほど高くないですが、30分もした頃には身体が内側から熱くなってきました。水筒の水を口に含みながらどんどん登っていきます。

 時折、山水が道の脇を流れていますので、そこでお水を補給したりもしました。


 最初は皆さんで楽しくお話をしながら登っていましたが、1時間くらい経ってからでしょうか、徐々に会話が少なくなってきました。


「サイサリー? ベラトリクス? どうしたどうした? さっき休憩したばかりだろう? 女子のオレたちに負けてるぜ?」


「うるせぇ、筋肉女! お前ら2人の体力が狂ってやがんだよ!」


「本当にゼフィラとスピカはすごいスタミナだな……。僕もベラトリクスも決してひ弱な方じゃないはずだけど」



 ちょっとした言い合いをしてますが、そこからは黙々と山を登っていきました。木々や地面に生える植物の様相が少しずつ変わり、眺める景色も明らかに高所に来ていると実感できるようになってきました。


「予定では目的の場所までそう遠くないはずですよ! 眺めが急に開けた平原に出たらゴールのはずです!」


「登り切ったらまずは飯だ飯! 腹が減って力が出なくなってきた」


「もうひと踏ん張りかなー? 飛ばして行こうぜ! スピカ!」


「2人とも、バラバラに行動するなって言ってるだろ、はぁはぁ……」


 あたしとゼフィラは男性陣より数メートル先を進んで、道の先を確認しながら進んでいきます。

 長い上り坂――、というより崖に近いレベルの道。抉れた土壁が天然の足場になっています。ゼフィラが先の登って、後ろのあたしに手を貸してくれます。同じ要領であたしも後ろから来るベラトリクスに手を差し伸べます。


 険しいところを越えると、ゼフィラはまるで崖っぷちに住む山羊のように華麗なステップで飛び跳ねながら登っていきます。


「マジかよ、あの筋肉女……、山にでも住んでんのか」


「学校に戻ったら僕らも体力鍛え直した方いいかもね? さすがにカッコ悪いよ」



「スピカスピカ! 早く登ってこいよ! ここは凄いぜ!」



 ゼフィラは坂の天辺からこちらに大きな声をかけてきます。とても気になるので、あたしも大急ぎでその後を追います。



「あっ!!」



 坂を上り終えると、そこから急に広い平原が広がっていました。真っ青の空の下に一面、緑の絨毯が広がっています。よくよく見ると、白や薄紫の小さな花も混ざっています。陽の光をいっぱいに浴びてきらきらと輝いているように見えました。


「ここがゴールだよな? すっごいキレイ!」


「はい! とっても素敵ですね!」


 あたしとゼフィラが同じ方に見惚れていると、いつの間にかベラトリクスとサイサリーも追い付いてきていました。


「おー、おー、おー! こりゃすげぇな」


「がんばった甲斐があったね。これはいい景色だ」



 皆さん揃って無事に目的の平原まで辿り着けました! 苦労して登ってきた先に自然の美しい景色がお出迎えをしてくれていました。

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