第83話 女の子ペア

 ゼフィラは小刻みなステップを踏みながらスピカの前に出た。


「魔法使いの基本戦術は安全な位置からの遠距離攻撃、オレが前で引き付けるからスピカが仕留めろ?」


 真っ黒な球体の頭部と大きな蛍でもいるかのような淡い光の目、ゼフィラはそこを睨みつつ、斧を握った手の動きを注視していた。


 スピカは数歩下がって呪文の詠唱を始める。


「オラオラ! かかってこいよ、怪物? お前の相手のはこのゼフィラだ」


 彼女の言葉の意味を理解したのか、たまたまタイミングが合っただけなのか、まものはゼフィラの言葉の終わりと同時に斧を振り下ろした。

 しかし、機敏な動きを見せるゼフィラは横っ飛びで躱し、刃は地面に突き刺さる。



「エアロカッターっ!」



 ゼフィラが躱すのを待っていたかのように、射線の開けたところをスピカの魔法が通り抜ける。彼女が狙ったのはまものの足!


 まものは獣の咆哮のような声を上げ、膝から崩れ落ちた。再び、立ち上がってくるまでには数秒の間が必要。そして彼女たち2人が追撃するには十分な時間だった。


 スピカは間を置かずに、最短で発動できるエアロカッターを放つ。確実に相手の動きを止めたところにゼフィラは火の中級魔法「ブレイズ」を叩き込んだ。


 「焼却」より「照射」と呼ぶのが相応しく、ブレイズの炎はまものの胴体を貫いて消えた。



 スピカとゼフィラは倒れたまものをじっと見つめ、動く気配がないことを確認するとお互いに安堵の表情を見せた。


 遅れて離れた場所で地鳴りのような音がした。ゼフィラはそれがサイサリーの放った魔法だとすぐに察したようだ。


「男供もやったんじゃないか? スピカは案外きっちりした戦い方をするんだな、びっくりしたぜ?」


「はい! あたしはまもの相手には容赦しません! 逃がさず確実に仕留める方法で戦おうと思っていました!」


「おー、怖い怖い。スピカの口からそんな言葉が出るとは思っていなかったぜ?」



 彼女たちがベラトリクスとサイサリーの元へと行こうとした時、暗い林道の向こう側からその2人がこちらに姿を見せた。


「なるほど……、そっちはそっちでまものに遭遇していたわけか」


「オレら2人で倒したのを自慢しようと思って来たのによぉ? お前らもしっかり倒してたのか」


「女だからって舐めるなよ、ベラトリクス? オレとスピカにかかれば楽勝だったぜ?」


「はい! 楽勝でした!」


 合流した彼らはそれぞれの戦果を称え合い、なにより今宵の宿と遠征に必要な資金を確保できたことを喜んでいた。




「しっかし、この後どうすればいいんだ? 町の人連れて来てまものの死体を拝ませりゃいいのかよ?」


「首を斬り落として持っていきますか? その方が早いかもしれませんよ!?」


 いつもの楽しそうな笑顔で放たれたスピカの言葉。それを聞いた一同は彼女の顔を見て少しの間、沈黙した。


「んー……、まぁ、そこまでしなくても誰か連れて来たらいいと思うぜ?」


「そうですか!? あたしのエアロカッターなら至近距離で撃てば首を斬れますよ? なんならまものが持っていた斧を借りてもいいかもしれません!」


「その……、なんだ、スピカ? いくら『まもの』とはいえ死体を無闇に傷付けるのは感心しない。さっきの詰所に行って警備の人を呼んでこようよ?」


「そうですか……。皆さんがそう言うならそうしましょう!」



 陽は完全に山の向こうに沈み、林道は闇が支配していた。彼らの持つ魔鉱石のランプの灯りだけが頼りなくあたりを照らしている。

 スピカの躊躇ためらいのない発言に、えもいわれぬ不気味さを感じながらも、彼らは警備兵の詰所へ向かって歩き出すのだった。

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