第77話 ゼフィラの秘策

「働いて稼ぐ……、だって?」


「はい! 今は自分の手持ちもありますが、実際の依頼の過程でこうして手持ちのお金を失うこともあると思うんです! せっかくなら、できるだけ個人のお金を使わずにやってみませんか?」


 今起こっている事態は明らかな事故ですが、アフォガート先生の言葉はこうした状況も想定しなさい、といった意味ではないでしょうか。

 「遠征」がどういった目的で設けられている授業なのか、あたしは自分なりに考えて、より実践的な行動力を身に付けるためではないかと思いました。


「スピカの話は一理ある。自分たちのお金は最終手段として残したうえで、今の状況下でも遠征を続けてみるのはたしかにおもしろい」


「けどよぉ……、『稼ぐ』といってもこの先に行く馬車代はどうすんだ? この町で日雇いの仕事探すのかよ?」


 しょんぼりさんだったベラトリクスさんが話に参加してきました! 少しは気持ちが落ち着いたのかもしれません。


「そうだね……。まずは、そこからなんだけど――」


「うーん、それならオレに任せてみないか? 多分……、だけどイケると思うんだ?」


 ゼフィラさんはあたしたちを見てから、にやりと笑いました。なにか秘策があるようです。



「おーい! お客さんたち! そろそろ出発したいんだが、どうするんだ!? 乗っていくのか?」



 離れたところから馭者さんの声が聞こえてきました。あんまりゆっくりはしていられないようです。

 すると、ゼフィラさんは大きな声で返事をして、馭者さんの元へ駆け寄っていきました。あたしたちは歩いて彼女の後を追っていきます。


 ゼフィラさんと馭者さんはなにやら小さな声でお話をしています。密着しそうなくらい近くで話しています。一体どんな交渉をしているのでしょうか?



「――っ!?」



 すると突然、ゼフィラさんは馭者さんの顔を両手で固定するように抑えました! まるで頭突きをするかのようです!


 あたしはびっくりして隣りにいるサイサリーさんとベラトリクスさんを見ました。すると、2人とも絵に描いたようなびっくり顔で固まっています。


 あたしが馭者さんの方に向き直ると、なんとゼフィラさんは背伸びしてどう見ても馭者さんとキスをしています!


 一体なにがどうなっているのでしょう!?



 時間にしてきっと5秒くらい、長い口づけを終えたゼフィラさんは糸を引くようなゆったりとした妖艶な所作で手を解きました。そして、馭者さんになにか耳打ちをしています。少し間を空けてゼフィラさんはこっちに駆けてきました。


「高山の麓まで無料でいいってさ? ただし、絶対内緒だってよ?」


 隣りを見ると、男子2人は顔を真っ赤にして固まったままです。ゼフィラさん……、あたしと同級生で色仕掛けができるなんて、恐ろしい!

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