第76話 計画通り
「誰かオレの鞄持ってたりしないか?」
ベラトリクスさんの発言に、あたしを含めた3人は血相を変えます。ただ、怒って赤くなったわけではなく、むしろみんな青くなっていました。
「おい……、おいおいおいおい! 冗談だろ? ベラトリクス!?」
サイサリーさんはベラトリクスさんの鞄の中身をひっくり返して確認しています。ベラトリクスさんは学校から支給されたアイテムだけ小さめのポシェットにまとめて入れていました。今はそれだけが手元にないのです!
「あれじゃないか! さっき荷台に荷物を積んだとき鞄を降ろしたろ? 路上に置きっぱなしなんじゃないのか?」
ゼフィラさんはそう言って来た道を走って戻っていきました。
「ベラトリクス! 君も行ってこい! 悪いけどスピカも付き合ってあげてくれ? 僕はここで駅馬車に待ってもらうよう話しておくから」
「おっ…おう! すまねぇ、サイサリー! ちょっと行ってくる!」
「わかりました! いきましょう、ベラトリクスさん!」
あたしたちは全力疾走で、荷車が横転したところまで戻ります。念のため道端にポシェットが落ちていないか確かめながら走りました。
現場まで戻ってくると先に着いていたゼフィラさんがこちらを向いて首を横に振っていました。
「念のため食堂にも行ってお店の人に聞いてきたけど、忘れ物はなかったってさ? ベラトリクス、本当に心当たりないの?」
「たしかに……、木箱を積むためこの辺で鞄を降ろした。けど、その後がはっきりしねぇ……」
ベラトリクスさんは珍しく弱った表情をして頭を抱えていました。
「あんまり大きな声で言えないけど――、これは多分盗られたな?」
「ゼフィラさん、どういうことですか!?」
彼女は腕組みをして周囲をぐるっと見回してからこう言いました。
「辺境の町はさ? 旅行者とかを狙った
ゼフィラさんの話だと、おそらく町に入った段階であたしたちは狙われていたのではないか、とのことでした。食堂でまとめて支払いをしていたベラトリクスさんが目を付けられ、そこに偶然の事故が起こってしまった。
「さすがにあの荷車の横転まで仕込みとは思えないけど、隙あれば盗んでやろうって感じで見張られてたんじゃないかな?」
「――っざっけんなよ! その盗人、見つけてぶちのめしてやらぁ!」
「落ち着けよ、ベラトリクス? 気持ちはわかるけど、どうやって見つけるんだ? とっくに遠くへ行ってるよ」
「だっ…だけどよ」
「とりあえず、サイサリーさんとこに戻りましょう! この先どうするか相談しないといけません!」
ベラトリクスさんはもう少しこの辺で鞄を探したいと言いましたが、あたしとゼフィラさんはそれを遮り、一度馬小屋まで戻りました。
「――ポシェットに入ってたのは、学校支給のお金と魔法の写し紙だけかい?」
「おっ…おう。支給されたものだけまとめてたから間違いない」
「弱ったな。写し紙がないと学校に連絡もできない。一旦、個人のお金で学校まで戻るのが得策かな」
「それなら、みんなの手持ち合わせて進んでもいいじゃないのか? 今から戻っても半日以上失うことになるぜ?」
「――とはいえ、これは緊急事態だ。学校側の指示を仰ぐのが得策だよ?」
戻るか進むかでサイサリーさんとゼフィラさんの意見は割れています。ベラトリクスさんは責任を感じてか、すっかり意気消沈してしまいました。心なしか、いつものトゲトゲ頭もしんなりして見えます。
あたしも必死に頭を使って考えます。サイサリーさんの言う通りでこれは緊急事態です。やっぱり学校に戻るのが正しい気がします。
『――実践は得てして『計画通りにいかないもの』だと肝に銘じておきなさい』
ふと頭に過ったのは、計画書を見せた際にアフォガード先生が仰った言葉でした。そして、あたしの中にある考えが浮かびました。
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