第75話 小さな事故と……
「ごちそうさまでした! とってもおいしかったです!」
町の食堂で出されたお料理はとてもおいしいものでした。近くに大きな川が流れているようで、そこで捕れるお魚をふんだんに使っているようです。
お支払いは学校支給のお金をベラトリクスさんが持っているのでお任せします。お魚がいる川までちょっと寄り道してみたい気もしますが、そこまで時間の余裕はないかもしれません。
「おいしかったね? 昼食を途中の町で食べるようにしたのは正解だったよ」
「ああ、頭から食える魚なんて学校の食堂じゃ出てこないもんな。鮮度の問題なのかなー」
ゼフィラさんはお腹をぽんぽん叩いています。お値段は普通でしたが、ボリューム満点でした。毎日朝食のパンを3個食べるあたしもお腹いっぱいになりました。
お腹が満たされると心も一緒に満たされます。みんな笑顔で駅馬車の待っている馬小屋に向かいます。
「おいっ! スピカ!! 危ねぇ――」
ベラトリクスさんの声でハッとしました。あたしはうきうきで先頭を後ろ向きで進んでいました。振り返ると、たくさんの荷物を積んだ荷車が傾いて――。
荷車が横転し、乗っかっていたたくさんの木箱が崩れる大きな音がしました。
あたしはベラトリクスさんのおかげでなんとか巻き込まれずにすみましたが、そのまま振り返らずにいると危なかったかもしれません。
荷車を押していたお髭で丸々した体型のおじさんがあたしのところに駆け寄ってきました。何度を「怪我はないか」と「ごめんよ」を言われましたが、無傷なので問題無しです。
「しっかしまあ派手に散らかったなぁ……、荷台に乗っけるくらい手伝ってやるか?」
ベラトリクスさんは率先して、蓋の空いた木箱からこぼれた果物を拾っていました。
「駅馬車が出る時間にはまだ余裕がある。積み直すくらいならできそうだね?」
「いっぱい食ったし、腹ごなしといきますかねー」
あたしたち4人とたまたま居合わせた町の人たち何人かも協力してくれて、みんなで崩れた荷物を直して荷車に積み直しました。お髭の丸々おじさんは何度もお礼を言っています。
幸い、荷車も木箱も破損はしておらず、ただ崩れただけでした。荷物はたくさんありましたが、みんなで協力するとすぐに終わります。
大きい木箱もあったのでとっても重いと思ったのですが、あたしでも十分抱えれるくらいでした。キレイに積み終えると、おじさんは協力してくれた人みんなに木箱のリンゴを1つずつ配っていました。
「さっき食べたばかりだからね? 僕はリンゴ1個も入りそうにないよ?」
「甘いものは別腹だろ? オレはこんくらいなら余裕でいけるぜ」
「食えなきゃ鞄にしまっとけよ? とりあえず、馬小屋んとこに急ごうぜ? 思ったより時間くっちまった」
「そうですね! ちょっとだけ急ぎましょう」
あたしたちは駅馬車の待つ小屋まで小走りで行きました。
「それにしてもスピカよぉ? お前もゼフィラと一緒でけっこう力あるんだな? さっきの木箱けっこう重かっただろ?」
「いいえ! あたしが持ったのは軽いのばっかりでしたよ! 運が良かったのかもしれませんね!」
「ふぅん……? そんなもんか」
あたしたちは駅馬車が出る前になんとか間に合いました。もし、遅れても乗客はあたしたち4人だけでしたので待ってくれそうな気もしますけど……。
馭者さんは別の人に変わっていました。ここの駅馬車は、町から町の区間ごとに管理している組合さんが違うようです。そのため、中継地点ごとに馭者さんが交代し、運賃も区間ごとに払わないといけません。
あたしたちは一旦城下町から今の町までの運賃を支払っていたので、ここから目的の高山麓の町までの運賃を追加で払います。
ちょっぴり面倒な仕組みですが、仕方ないですね!
ここでもお支払いはベラトリクスさん任せ、支給のお金は全部預かってもらっています!
「あれ? 誰かオレの鞄持ってたりしないか?」
「はっ?」
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