第74話 休憩
「――アトリア、
シャウラの鞄が妙に軽く見えて、話を聞いてみると魔導書を入れていないようだ。
気になってパーティの残り2人にも尋ねてみると、1人は私と同じように魔導書を持って来ていた。
「絶対いらないわよ。どうする? 学校戻って置いてきてもいいわよ?」
「……いい、たしかに重くて邪魔だけどわざわざ戻るほどでもない」
北方のシルベーヌ山に向かった私たち。馬車に乗って、城下町からはすでにかなり離れたところまで来ていた。
ここで魔導書を置いてくるためだけに学校へ戻る時間的な消費と、重い物を持ったまま行動する体力的な消耗を天秤にかけて、私は前者が大きいと考えた。
それに全員ではなく、私含めて2人だけの話だ。荷物だって常に持って歩いてるわけじゃない。少し我慢をしたらいいだけ……。
ただ、私は別のことを気にしていた。
たしかに「遠征に魔導書が必要」と誰かに聞いた。現に私以外にも持って来ている人がいるのだからそうした話はあったはず。問題は、どこで誰に聞いたかだ。それが明確に思い出せない。
もうひとりに聞いてみると、食堂で同級生と話をしているときにそんな話題が出た、と言っていた。
よく考えると――、私もそうだ。たしか、スピカとポラリスの3人で食堂で話をしていて、ポラリスの方だったかしら。「魔導書なんて重たいもの持っていくのは大変ですね?」と言ったんだ。
あの口ぶりだと彼女もどこかで聞いた話を話題に出しただけ、といった感じだ。なんだろう、この違和感。
ウェズン寮長から魔導書を狙う盗賊の話を聞いた。カレン様からは魔導書がなぜ狙われるのかも教えていただいた。それを学校の目が行き届かないところへ持ち出すなんて……。なにかおかしい。
◆◆◆
あたしたちを乗せた馬車はお昼ごろに中間地点となる小さな町へと着きました。お馬さんを休ませたり、場合よっては交代させるみたいで少し長めの休憩をとるようです。
計画ではここで昼食をとる予定にしていました。軽食を持ち歩いてはいるのですが、せっかくの遠出なので現地のお店で食事をとろう、と決まったのです。
「いやー、良い天気だ! 長旅だし雨じゃなくってよかったぜ! なんていうか走り回りたくなる陽気だな!」
「わかります! あたしも日が照っていると運動したくなります!」
「ゼフィラ、それにスピカも……、君たちは本当に元気だね?」
「サイサリーさんが休ませてくれたおかげです! この先はあたしたちが起きてますのでサイサリーさんは寝ててください!」
「ありがとう。ここで大体中間くらいだから、後半分はベラトリクスに起きててもらうつもりだけどね?」
「おう! 思いっきり寝たからあとは任せやがれ」
「あの音と揺れの中で熟睡できるなんて……、君は神経が太いんだろうね?」
「サイサリー? それは褒めてんのか?」
「好きに解釈してくれ? さあさ、食事はどこでとろうか?」
あたしたちは馬小屋から離れすぎない程度に町を歩いて、賑やかな食堂を見つけました。ちょうど4人掛けの席が空いているのも見えたので、そこに飛び込みます。
「見てください、ゼフィラさん! 向こうのおじさんが食べてるお料理がとってもおいしそうですよ!?」
「そうだな! メニュー見てもわかんないからあれと
「旅先の食事はメニューより、目で見ておいしそうと思ったものを選ぶのが正解だと思うよ? こうした庶民的なお店なら値段もそんなに気にしなくて大丈夫だろうから」
遠出して好きな食事を学校支給のお金で食べられるなんて――、遠征はなんと楽しい授業なのでしょうか!
これがまだ始まったばかりなんて、この先が楽しみで仕方ありません!
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