第73話 道中のお話

 高山麓の町へ向かう馬車を捕まえたあたしたちは、荷台に無理矢理設置したような席に座って目的地に向かいました。馭者のおじさんの話だと、城下町との往復で物資を運ぶついでに人も乗せるようになり、いつしか駅馬車に発展していったそうです。


 馭者さんはいろんな人を乗せ、道中はさまざまなお話をされるそうで山の情報にも詳しい人でした。

 山を8分目まで登ると平原が広がっているところがあり、目的の植物もそこに多数生息しているようです。同様の目的で、雇われの冒険者が行き来するので道はきちんと整備されているようでした。



「これってよぉ……。麓の町で『毒』買えるんじゃねぇのか? 山登る必要なくないか?」


「元も子もない話をするなよ、ベラトリクス? 魔法ギルドに所属したら最初の依頼はこういった素材集めの護衛とかが多いらしいよ? 練習だよ、練習」


 ベラトリクスさんとサイサリーさんは性格こそ全然違いますが、とても仲良しです。模擬戦で顔を蹴った蹴られたの間柄とは思えません!


 ベラトリクスさんは「顔面偏差値」とかいう意味不明の言葉を使いますが、女性への気遣いはあまりできないようです。

 逆にサイサリーさんは、あたしやゼフィラさんの荷物を持ってくれたり、馬車の席も傷みが少なくてキレイなところを譲ってくれたりと紳士です!


 ゼフィラさんは、ベラトリクスさんをサイサリーさんと比較してボコボコに批判してました。



「おう、サイサリー? お前普段そんなに優しい男じゃなかっただろ? まさか女の前だと点数稼ぎするタイプか?」


「君は本当に失礼な奴だな? 僕は姉が2人いてね、幼い時から、女性には優しくするよう教えられてきたんだ」


「お前……、それ『教育』じゃなくて『調教』だぜ?」


「どっちだろうと、女子にモテるのはサイサリーみたいなタイプだぞ! この遠征で女子の扱い方もしっかり学んだらいいんじゃないか?」


「うるせぇ、ゼフィラ。オレは筋肉女に用はねぇ」


「スピカスピカ―、今の聞いたか? 次の休憩所でこいつだけ降ろしてやろうか?」


「そうですね! ベラトリクスさんがお手洗いにいってる隙に先に出てしまいましょう!」


「スピカ……、お前が言うとマジでやりかねねぇから勘弁してくれ」



『お客さんたち、元気なのはいいけど先は長いから休める時しっかり休んどいた方がいいよ!』



 荷台の向こうから馭者さんの大きな声が聞こえてきました。きっと馬車でお話をしていると自然と声が大きくなるんだと思います。


「馬車の中なら滅多なことはないと思うけど、念のため交代で休むようにしよう。スピカとゼフィラは先に休むといいよ。僕とベラトリクスが交代で起きておくから」


「まーたお前、カッコつけやがって……。勝手に決めんなよ」


「だったら君も寝てろよ? 次の休憩所までは僕ひとり起きてるから」


「へいへい、それなら遠慮なく眠らせてもらいますか」


 ベラトリクスさんはそう言って目を瞑ると、数秒後には寝息を立てていました。驚きの早さです!


「スピカは寝なくて大丈夫かい? この揺れだと落ち着かないかもしれないけど、目を瞑るだけでも休憩にはなるよ?」


「あたしはまだ大丈夫です! お気遣いありがとうございます!」


「それにしても……、スピカの鞄はやけに重たいね? なにを持ってきたんだい?」


「重たいのはきっと魔導書グリモワのせいです! 皆さんも持ってきてますよね?」


「魔導書をかい? いいや……、あんなの遠征では役に立ちそうにないし、重たいから置いてきたよ?」


「あれ?」


 サイサリーさんの返事を聞いてあたしは首を捻っていました。

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