第70話 嘘

「北方にあるシルベーヌ山ふもとの針葉樹林に多く生息していると思いますよぉ。周辺の村には獣の解体屋さんもあったはずです」


「……ありがとう、ポラリス。やっぱり素材のことは実際使う人に聞くのが早いわよね?」


「いいえ、皆さんには期待していますよぉ。どんな良質な素材が届くのか、楽しみしかありませんから」



 私たちの遠征パーティは「オオカミの毛皮」と「オオカミの骨」を集めるのが目的。ようはオオカミを狩りとって来なさい、ということだ。


 周辺のギルドや本で調べてもよかったのだけど、私はポラリスにそれらの素材について尋ねてみた。魔技師共有の研究室で魔導書グリモワを読み耽っている彼女を見つけ、声をかけてみたのだ。

 すると、彼女は驚くほど豊富な知識を持っていた。研究員志望でも十分通じるレベルじゃないかしら。



「警戒心が強いですし、足も速いですから。簡単ではないと思いますよぉ」


「……一匹だけしとめたらいいみたいだから。専門家に相談してもいいし、気負わずやるつもり」


「がんばってくださいね! ――そういえばぁ、スピカさんとは別々のパーティになってしまったみたいですね?」


「……えぇ、たまには静かに勉強するのも悪くないかもしれないわ」


「そんなこと言うとスピカさん怒りますよぉ?」


「……ふふ、どうかしらね?」


 スピカの怒った表情は……、あまり想像できなかった。


「スピカさんておもしろい方ですよね。いつも明るく元気で、一緒にいるとこっちまで元気になれちゃう気がします」


「……相部屋だとうるさくて大変よ? 私は慣れてしまったみたいだけど」


 ポラリスに聞いた話をメモした後、軽い雑談を交わしてから私は研究室を出ようとした。



「けどぉ、スピカさん……。どうしてあんな変わったを付くんでしょう?」


「……スピカが、嘘?」



◇◇◇



「……スピカのパーティは植物採取?」


「はい! アトリアさんとこはオオカミの毛皮と骨ですか!? あたしたちよりずっと難しそうな課題ですね!」



 授業が終わり、夕食も終えた私とスピカは、部屋に戻ってお互いの遠征について話をした。もう少ししたら剣術の稽古に出かけないといけない。カレンさまに指導してもらえる日はいつ来るだろうか。


「……私たちの場合、オオカミの生息地はわりとすぐに行けるのよ。そこからが大変とは思うけど。スピカたちは目的地に着くまでが大変そう。山のかなり高いところまで登らないといけないのでしょう?」


「そうなんです! でも、ゼフィラさんと山登りの競争ができそうで楽しみです!」


「……目的、見失わないようにね」



 スピカはいつも通りで明るく、うるさいくらい大きな声で話をしている。私はポラリスから聞いた彼女の「嘘」が気になっていた。スピカに嘘なんて……、似合わないにもほどがある。


「……スピカ? あの――」


「なんですか、アトリアさん!?」


「……ううん。私、そろそろ剣術の稽古に出かけるから」


「はい! 気を付けていってらっしゃいです!」

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