第69話 計画
あたしたちのパーティは、ポーションの原料のひとつになる植物の採取を任されました。魔技師志望の生徒は薬剤の調合といった魔法に関わる以前の段階から経験を積むようです。
「ポーションの原料はたしか、高山植物の毒だったよね?」
「どっ…毒なんですか!?」
サイサリーさんの話にあたしはうっかり大声で反応してしまいました。静まり返る教室、「こほん」とアフォガード先生の小さな咳払いだけが響きます。
「ポーションに利用する際は何倍にも薄めるのさ。裏を返すと、少しの量でもそれなりに使えるってことになる。ただ、生息地が限られててね、山登りが必須になりそうだ」
「まずはどっかのギルドで採取できそうな山の場所を聞くか? 無駄足は踏みたくねえからな」
「山登りか! おもしろくなってきたな! スピカ、どっちが先に頂上に着けるか競争しようぜ!?」
「いいですね! 負けませんよ、ゼフィラさん!」
「こらこら、2人とも? 山登りは目的じゃなくて手段だからね? 植物を採取するのが目的。楽しくするのはいいけど、締めるところはしっかり頼むよ?」
「わかってるよ、サイサリー。まずは植物の採取を専門にやってる冒険家がいるだろうからさ、場所とか毒の扱いを詳しく聞いてこないとな」
「街の外に出るからよ、万が一の備えも必要になってくるな……。最悪、まものと出くわす可能背も
アトリアさんと別々で少し心配でしたが、皆さんとても積極的で助かります。これは楽しい遠征になりそうな予感がしてきました。
◇◇◇
その日以降、アフォガード先生の授業は遠征の予定を立てるのに割り当てられました。あたしたちはまず、素材採取専門の冒険家さんからお話を聞きました。
そして、セントラルから距離は遠いですが、交通が比較的整っていて「まもの」との遭遇報告がほとんどない高山を場所に選びました。
3日を使い、どういった経路で目的地へ行くか、どの交通機関を使ってどこで寝泊りするかなどを細かく決めて行動計画書をつくり、先生に提出します。
「ふむ……、場所は少し遠いようだが、時間的・予算的にも無理がない。毒の採取や山登りについて注意すべき箇所に触れているのも評価できる。良い計画書だ」
あたしは皆さんが持ち寄った情報をまとめただけなのですが、アフォガード先生に褒められました! 一緒に聞いていたみんな笑顔になっています。
アフォガード先生からは、移動の拠点になるところや主要な宿泊地には、交代で先生方が常駐してくれていると聞きました。また、たくさんのギルドに協力要請をしてくれているようなので、困った際は飛び込んだらいいとのことです。
「君たちの目的地なら可能性としては低いが……、万が一『まもの』との交戦、もしくは野盗の類に襲われた場合は身の安全を優先するように」
アフォガード先生は声が小さくて、表情も変化が少ないので少し不気味に見えますが話を聞いていると、実はとても優しい先生のような気がします。
「――あとは、計画書のできについては申し分ないが、決して油断はしないように。実践は得てして『計画通りにいかないもの』だと肝に銘じておきなさい」
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