第12章 遠征と準備

第65話 評価

「こほん……、3回生の模擬戦、アレンビーの目にはどのように映ったか聞かせてもらえるか?」


 ここはセントラルにあるアフォガードの研究室。本棚にびっしりと、それでいて几帳面に並べられた書籍の数々が興味をそそる背を覗かせていた。

 本以外は飾り気のあるものは一切ない質素な部屋、そこにアレンビーは呼ばれている。


「まずは総評として、非常にレベルが高いですね。私にとってもいい刺激になりました。うかうかしてると後輩にすぐ追い抜かされてしまいそうです」


 アレンビーの話に耳を傾けながら、アフォガードは真っ白で簡素なカップにハーブティーを注ぐ。彼女にそれを差し出した後、自分の分もゆっくりと注ぐのだった。


「エクレールとティラミスから聞いてはいたが、本当に丸くなったものだな、アレンビー?」


 ハーブティーの香りを楽しんでから一口だけ口に含んだアレンビー。口角を緩めて彼の問い掛けに答える。


「礼儀とたしなみですよ? ですが、学生の技量については純粋な評価です」


「ふむ、特に気になった学生は?」


 アレンビーは左手で口を覆うような仕草をして視線を宙に泳がせた。この場に数秒の静寂が訪れる。その間、アフォガードは特に香りを楽しむでもなく、ハーブティーを啜っていた。


「2人……、気になる子がいました」


「2人か……、おおよその検討は付くが、誰かを教えてくれないか?」


「はい、1人はウェズン・アプリコットです。私が在学中にも噂は耳にしていましたが、想像以上でした」


「やはりウェズンか。この前期の終わりに飛び級で4回生に……、そこから首席卒業も十分にあり得る子だからな」


「過大も過信もなく、今の私と互角以上にやれる子だと思いました。もっとも、上級魔法に制限をかけた模擬戦での評価になりますが」


 アフォガードは表情を変えずにアレンビーの話を聞いている。ウェズンの名前が上がるのは想定していたのだろう。


「もう1人はアトリア・チャトラーレかな? 彼女は単なる『魔法使い』ではなく、戦闘技術すべてにおいて総合的に優れている」


 当然のように話しながら、アレンビーの顔に目をやるアフォガード。彼女が疑問の表情をしていることに気付き話を止めた。



「どうやら、『2人目』はアトリアではないようだな?」


「はい、先生方が気付いていないとは思えないのですが……」


 アレンビーの前置きにアフォガードは無言で頷いた。次に名前の上がる人物についても、あるいは彼の予想していた人物だったのかもしれない。


「もう1人は、スピカ・コン・トレイルです」


 ふっと大きく息を吐き出すアフォガード。彼の返事を静かに待つアレンビー。


「セントラルの教員の目はそこまで節穴ではないよ、私も含めて。アレンビーが心配しなくてもちゃんと気付いているから安心したまえ」


「先生方の目を疑ってはいませんよ? ですが、本人に自覚がないようでしたから?」


「自ら気付けるか様子見をしているところだ。前期の授業が終わった段階で気付かないようであれば、こちらから伝えるつもりでいる」


「『特異魔法』……、しかも過去に例のある系統ですよね?」


 アレンビーはハーブティーで口を少し湿らせた。


「ふむ……、ローゼンバーグの前に本校で『卿』を付けて呼ばれた、『ルーナ・ユピトール』と同じ系統の魔法だ」

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