第54話 見守る側
臨時講師アレンビーの、2回目であり最後の授業。第一演習場に設けられた闘技場で3回生の生徒たちが模擬戦を行う。
人数の都合から、闘技場を4分割して4試合ずつを同時に行っていく。審判は、次に試合予定の生徒が務め、アレンビーと教師のティラミス、エクレールは各試合を監視する役目に就く。
「上級魔法の使用は禁止。中級までなら万が一の危険があっても、先生方か私ですぐ止められるから遠慮なく使っていいわ。授業時間の都合もあるから、5分で決着がつかなかったら引き分けにして」
アレンビーは簡単なルールの説明をしたあと、早速生徒たちを闘技場に割り振っていった。半数ほどの生徒は対戦相手を志望してきた。それら以外は、教員2人と相談して技量が近い者同士が戦うように組み合わせをしていったのである。
彼女は対戦カードとその順番の一覧に目を通しながら「スピカ・コン・トレイル」の名前を探した。先日、偶然酒場で顔を合わせてから気になる存在になったようだ。
『スピカさんは――、最終組の1つ前か。相手のシャウラさんはけっこう筋がいいって先生方が言ってたわね』
アレンビーがスピカの名前だけを探したのには理由があった。もうひとり、酒場で出会ったアトリアの名前は探す必要がなかったからだ。
実技演習に参加している生徒の人数を8で割ると最後に2余る。闘技場で同時にできる試合数は4、つまり最後に1組だけ残って対戦する。アレンビーはこの最後の対戦に「ウェズンVS.アトリア」のカードを入れた。
これは彼女の独断ではなく、教員の2名、ティラミスとエクレールの希望もあってのこと。彼らも注目しているのだ。たかが、授業の一環の模擬戦とはいえ、彼女たち2人の対戦に……。
ウェズン・アプリコットの魔法の才覚は突き抜けており、1年から学業を共にする生徒間では残念ながら勝負付けが終わっている感があった。だが、編入生に関してはその限りではない。
アトリア・チャトラーレは進学組含めてすでに頭角を現している。ウェズンとの力関係が未知数の数少ない生徒といえた。
各生徒にマジックアイテムの「的」を配り、1から4に割り振った闘技場に生徒は散っていく。その背中を微笑みながら眺めるアレンビー。
「懐かしいですか? 私たち教員からすれば、あなたがここにいたのもつい昨日のことのようですが――」
「1年しか経ってませんからね。まさか見守る側になって帰ってくるとは思ってませんでしたけど」
アレンビーの横に立つエクレール。2人は同じ方向を見つめながら言葉を交わしていた。そこにティラミスもやってくる。
「アレンビーちゃんはとても優秀だったものね? 実技演習で相手になる子はほとんどいなかったんじゃないかしら?」
「ふふっ……、『パララ・サルーン』には勝てませんでしたけどね」
教員2人はお互いに顔を見合わせた。彼らの知っている「アレンビー」はパララの名を上げることを嫌っていたからだ。
その彼女が自らパララの名を口にする。ここを卒業した後の、アレンビーの心境の変化と成長を――、今の言葉から感じ取る2人だった。
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