第10章 スピカの戦い
第53話 笑顔
あたしとシャウラさん、そしてアトリアさんとウェズンさんの模擬戦は前回のアレンビー先生の授業からちょうど一週間後の予定です!
お休みの日にアトリアさんとたくさん練習をしました。そして、授業のある日も辺りが暗くなるまではずっと練習を続けました。アトリアさんは剣術のお稽古に行くギリギリの時間まであたしに付き合ってくれます。
――そして、今日は模擬戦の前日になります。
何度も練習を繰り返していくうちに、下級魔法の射程は身体が覚えてきました。魔法発動の予兆も前よりずっと早く感じ取れるようになった気がします。
「……この短期間で距離感をしっかり掴めたみたいね?」
「はい! アトリアさんのおかげです! これで前よりしっかり戦えると思います!」
「……スピカは運動能力が高い。それにスタミナもある。シャウラに勝つなら動き回って消耗戦に持ち込むべきだと思う。付け焼刃の技術で敵う相手ではないと思うから」
「いっぱい練習しましたから、きっちり成果を出せるようがんばらないとですね!」
「……そうね。今日はそろそろ終わりにしましょうか。暗くなってきた」
連日みっちり練習を重ねたので、あたしもさすがに疲れました。汗をしっかり流してベッドに飛び込みたい気分です!
2人で並んで第2演習場を後にし、女子寮へと向かいました。その途中、校舎の脇で向かい合って話している人を見かけました。よくよく見るとそれはシリウスさんとウェズンさんのようです。
なにやら言い争いをしているようでした。この時、笑顔じゃないウェズンさんを初めて見ました。
あたしとアトリアさんはお互いに顔を見合わせました。このまま女子寮へ向かうと2人の近くを通らないといけないからです。
「……ちょっと遠回りしましょう」
アトリアさんがそう言って向きを変えたとき、シリウスさんがこちらに手を振りながらゆっくり歩いてくるのが見えました。ウェズンさんはその場に立ったままです。
「やぁ、2人とも! 今日もこんな時間まで自主練かい? がんばってるね?」
「……お疲れ様です、シリウス先輩。先日はポーションの差し入れありがとうございました」
「ははは、気にしないでいいよ。実は僕の実家、薬剤の調合をしているんだ。過保護な親で、寮に次々とポーションが送られてきてね? 僕1人では溜まる一方だから、がんばってる人たちに配ってるんだよ」
「調剤屋さんなんですか!? すごいですね! 羨ましいです!」
「それはどうだろう? 時々、売り出す前の変なフレーバーを混ぜたのも送ってくるからね……。よかったら君たちも今度飲んでみるかい? 味の保証はできないけど、効果はたしかだよ?」
「――シリウス先輩、おふたりは練習の後でお疲れだと思うの? 余計な話はその辺にしたらどうかしら?」
いつの間にかシリウスさんの後ろにやってきていたウェズンさんがそう言いました。表情はいつもの笑顔です。
「おっと……、これは失敬。では、僕は先に退散させてもらうよ」
シリウスさんは右手を上げて軽く手を振り、あたしたちの前から去っていきました。変わった味のボーションの話をもう少し聞きたかったのですが、残念です。
「アトリアさん、模擬戦は明日ね? お手柔らかにお願いするわ?」
ウェズンさんの笑顔の問い掛け、それに対して珍しくアトリアさんも笑っています。ただ、それは微笑みではなく、不敵な笑みでした。
「……御冗談を。模擬戦とはいえ、叩きのめす気でいきます。そうでもしないとウェズンさんとは勝負にならない気がしますから」
「うふふ……、アトリアさんのそういうところ、とても好きよ? 明日が本当に楽しみだわ」
笑顔で向かい合うアトリアさんとウェズンさん……。ですが、あたしは今までこんなに怖い笑顔が向き合っているところを見たことがありません。
明日は楽しみではありますが、恐ろしくもなってきました……。
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