第49話 フラグが立つ

 アレクシア王国の歴史は、魔法発展の歴史と言っても過言ではない。言い換えれば、アレクシアにとって魔法科学・技術は国の優位性を誇示するものなのだ。


 それゆえ魔導書グリモワやマジックアイテムといった「モノ」から、魔法使いに対してまでさまざまな制約が設けてある。


 魔法使いは国に承認された教育機関から免許をもらい、始めて名乗ることが許される。アトリアやスピカは魔法を扱うことができても、傍から見ればあくまで「魔法使い」であって正式な「魔法使い」ではない。


 もっとも、魔法ギルドによっては必ずしも免許がなくても所属を許されているところも存在する。だが、国外での活動や任務によっては免許がなければ行動が制限される場合もあるのだ。



 そして、魔導書。これに関しては国外への持ち出しや流布は厳しく取り締まられている。魔法に関する知識そのものが、この国にとっての貴重な資産だからだ。


 セントラルを代表とするアレクシア内の多くの魔法学校は、国外の学生も受け入れてはいる。しかし、魔法使いとしての免許を取得するまでは、所持品の持ち出しすらも厳しく制限している。



◆◆◆



「――要は、この国の魔導書は他国だと貴重品なんだ。『セントラル』のお墨付きとあれば尚更よね?」


 カレンは、アレクシア王国にとっての魔法とはなんぞやを含めて魔導書の価値についてカウンター席で説明をしていた。

 もっとも剣士である彼女が魔法使い、もしくはその見習いに囲まれて「魔法」について話す光景はなんとも奇妙なものだが……。


「学校の教科書だから正規のルートでは手に入らないし、発行部数も限られている。その辺も含めて、非正規……、ようは闇市の界隈だと高額で取引されてるってわけだねぇ」


 カレンは剣士ギルドでの経験からこうした事情に詳しかった。盗賊団のアジトを制圧し、押収した金品の中から魔導書が出てくるなんてことも珍しくないようだ。



「くふくふ……、人目に付くところで魔導書を出したら、『私は大金持ってます』と言ってるのと同じってことさね? スピカは注意して、明るいうちに学校に帰るようにね?」


「はい、センセ! アトリアさんもいるからきっと大丈夫です!」


 隣りに座るアトリアの顔を見ながら元気に返事をするスピカ。一方のアトリアは先日、カレンに助けらた日のことを思い出していた。



「ちょっと心配だから帰りは私も付き添います。ようで気になるんですよ。ちょうどセントラルへ行く予定もありますから」


 そう持ち掛けたのはアレンビー。特に予定がないパララもそれに付き合うと言ってくれた。



「とっ…ところでアレンビーさん? ふっ…ってどういう意味ですか? きっ…聞き慣れない表現だなって……」


 パララは会話の中で何気なく飛び出した言葉に疑問を投げ掛ける。アレンビーが周りに目をやると、ここに集まった皆がどうやらパララと同じ疑問をもっているようだった。


「あっー…と、うちのマスターがよく言うんですよ? フラグが『立つ』とか『回収する』とか? 私は慣れましたけど、たしかに変わった言い方ですよね? 『前触れ』みたいな意味合いかなと……?」


「アレンビーさんはたしか、『知恵の結晶』所属ですよね? すると、その言い方もそこのギルドマスターがするのですか?」


 皆がふんふんと頷く中、神妙な顔付きで訪ねてきたのはスガワラだった。アレンビーは意外な人物の問い掛けに少しだけ驚いた後に一言、「そうです」とだけ答えた。

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