第9章 十色の花
第48話 もう1つの顔
友人アトリアを引き連れたスピカとその先生の待ち合わせ。カレン、パララ、アレンビー3名の来店。彼女たちが訪れた酒場は、魔法使いを志す者なら知らぬ者はいないと言われる「ローゼンバーグ卿」こと、ラナンキュラスが店主を務める。
数日前、偶然夜道で顔を合わせているアトリアとカレン。魔法学校の臨時講師としてスピカとアトリアを知るアレンビー。酒場に居合わせた者たちはそれぞれが不思議な運命に導かれたようだった。
女性客ばかりで微妙に居場所をなくしたスガワラは、カウンターの裏でラナンキュラスともほんの少し距離をおいたところで突っ立ている。彼が額の汗を頻繁に拭っているのは気温の高さだけが原因ではなさそうだ。
「アトリアさん……、だったかしら。驚いたでしょう? スピカの『先生』と聞いてまさかこんな大きなおばさんが待っているなんて」
「……いいえ、おばさんだなんて……。正直、身体の大きさには少しばかり驚きましたが」
「くふくふくふ……、素直でとてもいい子だこと。スピカをよろしく頼みますよ? あの子はいろいろと危なっかしい子ですから」
「センセ! 見て下さい! あたしの名前が刻まれた
スピカはテーブルの上に重厚なハードカバーの書籍を自慢げに置いてみせた。
魔導書を持ち歩くのにアトリアは反対していた。そして、スピカも一度は諦めて寮の部屋に置いてくるつもりでいたのだ。ただ、スピカのあまりに残念そうな表情にアトリアは心苦しくなってしまったのだ。
結局、彼女は外で不用意に取り出さないことを条件に持ち出しを許したのだった。さすがに明るい時間なら盗賊に襲われる心配もないだろう、と考えた。
「あなたたち、不用意に魔導書を持ち出さない方がいいわよ? 在学中にそれ無くすと面倒なことになるんだから?」
「そっ…そうですよ! お外には魔導書をねっ…狙ってる悪い人たちもいるんです!」
「くっくっ……、それならちょうどこの間絡まれてたよねぇ、チャトラぁ?」
アレンビー、パララ、カレン……、大人3名の話を順番に聞きながらアトリアはふと疑問を投げかけてみた。
「……アレンビー先生やパララ先輩の時も注意されてたんですか……。どうして魔導書なんてほしがる人がいるのでしょう?」
この問いかけに対して酒場は数秒静寂に包まれた。その答えを知っているカレンは誰かが答えるかと期待していたようだ。しかし、誰も口を開く気配はない。唯一、センセだけがなにか含みのあるような微笑みを浮かべながらその様子を眺めている。
「他国に売れるんだよ、セントラルの魔導書は。それもけっこうな額でさ」
カレンはセンセの表情を軽く窺いながら、ここにいる者たちに「セントラルの魔導書」の裏側についての話をするのだった。
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