第47話 運命的偶然
ラナンキュラス・ローゼンバーグ。王立セントラル魔法科学研究院の卒業生の中で伝説と化している魔法使い。アレンビーがうっかりそれを口走ったことで、なにも知らなかったスピカとアトリアも最敬礼で挨拶をするのだった。
そして、「ローゼンバーグ」の名を聞いてなにかを納得するように、ひとり頷く「センセ」の姿もそこにはあった。
カレン・リオンハート。スピカは初対面だが、アトリアは2度目。次に出会うことがあれば弟子入りを考えてくれる、とカレンは話していた。その「次」がこんなに早く巡ってくるとはお互いに思ってもみなかったのだ。
アレンビー・ラドクリフ。先日、母校であるセントラルにて臨時講師として授業を行っている。そこでスピカとアトリアとは顔を合わせていた。
彼女が「ローゼンバーグ」の名を口にしたことで、ただでさえ「偶然」の集まったこの場に、更なる混乱を招き入れてしまった。
パララ・サルーン。混乱がひと段落したところで、アトリアは彼女の存在に気付いた。魔法闘技のスター選手アレンビーが自ら指名し、決闘した相手である。
この2人の戦いは魔法闘技界隈では語り継がれている有名な試合だった。激闘の末にアレンビーが勝利を収めたのだが、それ以後彼女は苦戦らしい苦戦をしていない。
ゆえにアレンビーに勝てるとしたらパララ・サルーン、と言われているのだが、当の彼女はその一戦以後、魔法闘技にはまったく出場していない。そのため、パララの動向は一部の間で、非常に注目されているのだ。
多くの偶然なのか、運命なのかを集結させたこの場で、スピカに魔法を教えただけ、と語る謎の女性「センセ」。
そして各々の挨拶を聞き、それぞれの注文を聞きながら必死に名前と関係性を記憶していくスガワラの姿がそこにはあった。彼は自分以外、店内の人すべてが女性で埋め尽くされていることに、えもいわれぬ居心地の悪さを感じていた。
「……カレン様、改めましてアトリア・チャトラーレです。2度目は運命と仰いましたよね?」
「茶トラ……」
「……えっ?」
小さな声で呟いたのはスガワラだった。意外な人物の発言に、怪訝な表情を浮かべるアトリア。
「ああ……、これは失礼しました。私の祖国では茶色くて縞模様の猫を『茶トラ』と呼んでまして」
スガワラの話を不思議そうに聞くアトリア。その話はカレンの耳にも届いていた。
「スガ、それいいね! アトリアちゃんは今日から『チャトラ』! 獅子に弟子入りする猫なんてなんかカワイイじゃないかい?」
「……えっ、ええ?」
困惑するアトリア、それを誰かに訴えるように周囲を見渡していると、隣りに座るスピカと目が合った。彼女の眼はとても楽しそうにしている。
「チャトラ♪ チャットラー♪ かわいいですよ。くふふふ」
「……あなたね、怒るわよ?」
「ラナ様、本当に申し訳ございませんでした。私が余計なことを口走ったばかりに場を混乱させてしまって……」
アレンビーはカウンターを挟んでずっとラナンキュラスに謝罪の言葉を送っている。当のラナンキュラスは特になにとも思っておらず、にこやかな表情を向け賑やかな店内の様子を楽しんでいるようだった。
「あっ…あの、ラナ? 少しお尋ねしてもいいですか?」
小さな声で問い掛けるパララ、ラナンキュラスは同じく小声でそれに応じた。
「こっ…このお店に、わっ私を尋ねて若い男の人が来ませんでしたか?」
「パララを尋ねて、ですか? いいえ、記憶にありませんよ?」
「なっ…ならいいんです。いっ今のは忘れて下さい!」
パララは問い掛けの意味も語らず、そのまま黙り込んでしまう。ラナンキュラスは疑問に思いながらもそれ以上追及はしなかった。
「スピカ、学校は楽しいかい?」
「はい、センセ! アトリアさんと一緒で毎日が充実しています!」
「それはそれは……。利発そうな子が友達になってくれて私も安心したよ。スピカはあんまり騒がしくして迷惑かけないようにね?」
「はい! 気を付けます!」
「本当に大丈夫かしらね? くふくふくふ……」
様々な出会いを集結させた今日の酒場「幸福の花」。ここに居合わせた者たちがお互いに面識をもったのが、後に大きな意味をもつことになる。これは運命に導かれた奇跡だったのかもしれない。
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