第46話 交差点
カレン、パララ、アレンビー、彼女たち3人は並んでカウンター席に座り、スガワラは順番に冷えた水を差し出していた。
「わっ…私とアレンビーさんは『やどりき』主催の魔法勉強会に参加していたんです。いっ一緒になるのはアルコンブリッジの戦い以来でしたので、お昼でもどうかなってなりまして――」
「スーハー……、はい。せっかくなので、ラナ様のお店で昼食を頂こうかというお話になりました。カレン・リオンハート様とは偶然出会ったのですが、まさかラナ様と旧知の仲とは存じませんでした」
パララがぎこちない話し方をするのはいつものことだった。彼女は極度の対人恐怖症であり、特定の条件下を除いては、親しい間柄でも狼狽えるようになってしまう。
アレンビーは胸に手を当て、深呼吸を挟みながら話をしている。ラナンキュラスの前でのみ平常心がどこかへ旅立ってしまう彼女だが、今はなんとか平静を取り戻している。
女性客3人の来店によって、急に居場所をなくしたように感じたスガワラは何気なしに店の入り口に目をやった。
今日も天気が良くて暖かくなりそうだ……、彼がそんなことをぼんやり考えていると、またも扉が開いた。
来店したのは2人の女性……、それも少女に近い年齢と思われた。赤い髪をした少女は店に入るなり、きょろきょろを中を見まわしている。まるで誰かを探しているかのように。
「いらっしゃいま――」
「センセ! お待たせしました!」
スガワラの挨拶は少女の大きな声によってかき消された。彼女の声に反応したのは最初に来店していた「センセ」。しかし、数秒遅れてカウンターにかけていたアレンビーも振り向くのだった
「スピカ、お店で大きな声を出すのはおやめなさい。他のお客様に迷惑でしょう?」
赤い髪の少女、スピカは照れくさそうにカウンターにいたラナンキュラスに向かって頭を下げた。
「センセ、今日はお友達も一緒です! 寮で同室のアトリアさんです!」
スピカの横に立っていたアトリアは、「センセ」と呼ばれた女性に一礼をする。このスピカの口にした「アトリアさん」に反応したのはカウンターに座っていたカレンだった。
「あなたたち……、セントラルの3回生の子たちよね?」
アレンビーに声をかけられ驚く2人の少女。
「アトリア……、あんた――、この間セントラルの寮まで送って帰ったお嬢ちゃん?」
続けて、カレンの姿を確認して言葉を失うアトリア。
「あなたたち! セントラルの学生ならまずはこのお方にご挨拶なさい! ここの店主様はあの『ローゼンバーグ卿』こと、ラナンキュラス・ローゼンバーグ様よ!」
アレンビーの大きな声が店内に響き渡る。
「アっ…アレンビーさん、それは今言わなくても……」
パララがアレンビーを抑えようとするも、時すでに遅し。魔法使いの少女2人は一度に飛び込んだ情報の嵐に困惑していた。
そして、状況をよくつかめず顔を見合わせるラナンキュラスとスガワラ。
「あらあら……なんだか大変かも、ですね?」
「とりあえず、私は店の扉に『close』の札をかけてきます」
これ以上の来店があると、いよいよ場の収拾がつかないと判断したスガワラは一旦、お店を閉店状態にするのだった。
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