第42話 距離感
空が夕日に焼かれ茜色に染まっています。アトリアさんとの練習は時々休憩を挟みながらずっと続けていました。剣術のお稽古も今日はお休みのようです。
何回目かもわからない休憩、定位置と化した木陰に2人で座り込みます。しばらく無言で息を整えていました。
追いかけっこを何度も繰り返して、あたしが距離感を掴んだとわかると、より実戦的な練習に切り替えました。魔法の予兆を感じ取る訓練です。続いて、魔法闘技ルールでの模擬戦も何回かしました。
「……わかってきた。あなた、感性はとてもいいのよ。だけど、それに頼り過ぎてる」
「アトリアさんは本当に
「……半分は褒めてるけど、もう半分はダメなのよ? ちゃんとわかってる?」
「あたし、考えるのはあまり得意じゃなくて――」
「……違う。そう言って考えることを放棄してるのよ?」
「……いい? あなたは私の言ったことを実践するのはとても上手だわ。けど、それが続かない……、どうしてかわかる?」
「うーん、考えていないから……ですか?」
「……そう、距離感も予兆も全部そうなのよ。考えて理解する。何度も考えて理解して同じことを再現する。この繰り返しがやがて『考える』を無意識におとし込む。これは一見考えていないようだけど、感性だけでできるわけじゃない」
「考え続けたら、いずれ考えなくてもできるようになるってことですか?」
「……おおよそ当たってるわ。正確には考えてる自覚が無くなるのよ」
アトリアさんはとっても頭がいい人です。センセは理屈っぽい話は苦手でした。
『理屈っぽい話は理屈屋に任せといたらいいのさ。私はスピカの隠れた才能をしっかり伸ばしてあげるから』
アトリアさんの話はセンセよりわかりやすいかもしれません。
「……でも、模擬戦の動きはとてもよかった。最後の1戦は引き分けだったし」
「あたしはアトリアさんに1回も勝てませんでした。練習とはいえ、何度も続けて負けるとさすがに悔しいです」
「……あなたには負けないわよ。けど、最後は私も的に当てられなかった。さすがに疲れてしまったみたい」
アトリアさんは少し納得いっていないようでした。自分の両手のひらを見つめながら首を捻っています。
気が付くと辺りが暗くなっていました。今日一体何時間練習していたんでしょう? とても疲れましたが、楽しくてあっという間でした。
「……この暗さだと的がよく見えないわね。切り上げましょう」
アトリアさんは先に立ち上がりました。練習はここまでのようです。
「アトリアさん! 1つお願いがあるんですけどいいですか!?」
「……お願い? なに?」
遅れて立ち上がったあたしの方を振り返り首を傾げています。
「名前……、名前で呼んでくれませんか?」
虚を突かれたようなアトリアさんの表情、かすかな間があって息の漏れる音が聞こえました。
「……部屋に戻りましょう、スピカ?」
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