第41話 自主練!

 食堂で朝食をとった後、一息ついてからアトリアさんと第2演習場に向かいました。外は晴天です! 雲ひとつない青空が広がっていてとても気持ちがいいです!


 アトリアさんは、魔法闘技に使う「的」をたくさん持っていました。どこから持ってきたのか不思議だったので尋ねてみると、なんとポラリスさんからもらったそうです。


「……私たちが実技の授業してる時、魔技師志望の学生はマジックアイテム作成の練習をしているそうよ? それでこれは失敗作。いっぱいあるそうだからもらってきたわ」


 失敗作は魔法伝導率が悪くて操作がうまくいかないそうです。ですが、練習に使うのならそれでも十分です。ポラリスさんに会ったらお礼を言わないといけませんね。



 第2演習場はとても広いです。あたしたちのようにお休み日でも練習をしている学生が疎らにいましたが、それでも十分空きはありました。


「……スピカは間合いのとり方、魔法闘技ルールなら相手と的の距離感ね。これを体で覚えなさい?」


 アトリアさんは、以前のあたしとシャウラさんの模擬戦を振り返りながら、反省点を教えてくれました。

 曰く、詠唱速度や威力は及第点。ですが、間合いのとり方が雑。魔法詠唱の予兆に気付くのが遅い。思えば、模擬戦の後にも同じようなことを言われた気がします。


「……同級生を観察していたのだけど、シャウラは3回生の中で相当デキる子よ。次は狙いを外すこともないと思う」


 まるで先生センセのようにアトリアさんはいろいろ教えてくれます。彼女は話しながらあたしの前に足で線を引き、そこから離れてもう一か所線を引きました。


「……この線と線の間が一般的な下級魔法の射程よ。まずはこの距離感を身体に刻みなさい。アレンビー先生みたいな射程外の魔法はまず来ないから安心して」


 そう言って、まず始めたのは「追いかけっこ」です。あたしは的を浮かべながら、追いかけてくるアトリアさんから逃げます。的が下級魔法の射程外にあるうちはアトリアさんは攻撃してきません。

 ですが、射程内に入ったら容赦無く撃ち落としてくるそうなので必死で逃げます。


 この的はやっぱり失敗品なので浮かべるのは簡単ですが、細かい操作はうまくできません。狙われたらほぼ確実に落とされそうなので、魔法を撃たれない距離を維持し続けるのが大事になります! そのための練習です!


「……あまり距離をとり過ぎないで。同じ距離を維持するのよ」


 追いかけっこは楽しいですが、離れすぎてはいけないのはむずかしいです。あたしは何度も何度も的を落とされました。



「……次は逆。私が逃げるからあなたは追いかけなさい。射程内だと思ったら遠慮なく魔法を使いなさい。的は動かさないから、射程内なら当てられるはずよ」


 今度はあたしがアトリアさんを追いかけます! アトリアさんは不思議で、大きな動きはありませんがとても素早く動きます。弧を描くようにずっと一定の距離を保っています。

 試しに一度魔法を放ってみましたが、一歩も動かないアトリアさんの手前で失速してしまいました。完全に射程距離を見切っているのです。



 失敗品の的を大量消費して、陽が一番高く昇る頃までずっと追いかけっこをしていました。走り続けて、汗をたくさん掻きました。アトリアさんもさすがに疲れたようで、ゆっくりこちらに歩み寄って休憩を告げます。


「……あなた、体力お化けね? ゼフィラにも引けを取らないんじゃないかしら?」


「わかりません! 今度ゼフィラさんとも追いかけっこで勝負してみます!」


 お互い喉がからからになって魔力もたくさん消費しました。近くの木陰にしゃがんで一休みします。


 すると、こちらにやってくる人影が見えました。キレイな金色の髪をした男の人です。たしか、入学の日に編入生を案内してくれたシリウスさんです。



「やぁ、お休みの日にがんばってるね、もう学校生活には慣れたかな?」



 なんとシリウスさんはあたしたち2人分のポーションの瓶を差し入れしてくれたのです。あたしとアトリアさんは何度もお礼を言いました。


「たまたま君たちの姿が目に入ってね? 熱心に練習してる姿を見ると応援したくなるよ」


 シリウスさんは風紀委員会の委員長だそうです。今日はその集まりがあってたまたま学校に来ていたそうです。風紀委員といえば、寮長のウェズンさんもたしかそうでした。


「アトリアさん、だったかな? ウェズンが話してたよ。次の授業では君と模擬戦をやるんだって?」


「……はい、あの人が一番強いと思ったので」


 アトリアさんの返事にシリウスさんは大きな声で笑いました。笑い方まで爽やかでカッコいい人です。


「はははっ! ウェズンは僕ら4回生でも勝てるかわからないからね。本当にすごい子だよ。けど、君との模擬戦は楽しみにしてるようだったよ?」


「……楽しみ、ですか」


 シリウスさんはあたしたちと少しの間、雑談を交わしました。上品ですが、ユーモアもあって素敵な方です。



「自主的な練習は大いに結構だけど、無理はしないようにね? あのウェズンだって魔法に関してはすごいけど、身体はあまり強くないんだ」


 彼はそう言って、演習場を立ち去って行きました。ポーションを飲みながら木陰でゆっくり休んだおかげか、体の疲れはすっかり癒えていました。


 

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