第36話 魔法闘技ルール
アトリアさんは実技の授業がある第一演習場に移動する道中で、臨時講師でいらっしゃる「アレンビーさん」について教えてくれました。
魔法闘技のルールとか、マジックアイテム「的」の操り方はセンセに教わっていましたが、競技選手のお名前とかは全然知りませんでした。
「……セントラルに所属してるのだから有名な卒業生の名前くらい覚えときなさい」
アトリアさんはため息混じりにそう言いました。それでもあたしの知らないことをしっかりと教えてくれるのでとても優しいです。
「……まさかと思うけれど、ここにいて『ローゼンバーグ卿』も知らないとか言わないわよね?」
「ええっと、ちょっとしか知りません! ですが、すごい魔法使いの方なんでよね!?」
「……ここの卒業生で一番有名な方なんじゃないかしら? もっともローゼンバーグ卿は魔法使いの世界で知れ渡ってる人の気がするけど……。アレンビーさんは広く大衆に名の知れた方だから比較はできないか……」
「ローゼンバーグ卿と私なんかを比べないでくれる? 畏れ多いにもほどがあるわよ? 私の力じゃまだ足元にも及ばないわ」
「……えっ?」
「はっ?」
背中から急に声が聞こえたので、振り返るとエクレール先生とティラミス先生……、そしてもうひとり、声の主と思われる深紅の長い髪を右にまとめたキレイな女性が立っていました。
「……アっ…アレンビー…さん?」
アトリアさんが明らかに驚いた表情をしています。なんと演習場に着く前に臨時講師の先生と出会ってしまったようです!
「3回生の子かしら? アレンビー・ラドクリフよ。今日はよろしくね?」
彼女はそれだけ言って、先生方と共にあたしたちの横を通り抜けて演習場の方へと歩いて行きました。あたしはその背中を頭を下げて見送ります。
「……驚いた。不意打ちよ……、いきなりあのアレンビーさんに話しかけられるなんて」
「あたしもびっくりしました! キレイな人でしたね!」
「……あなた全然動じてないわね? ある意味その性格うらやましいわ」
◇◇◇
第一演習場には、魔法闘技場を模した練習場があります。あたしたち3回生は今日、ここで実技の授業を行います。内容は「魔法闘技ルール」での実践練習です!
魔法闘技は王国の中心街にある「魔法闘技場」で行われている魔法対抗試合のことです。直接術者に攻撃するのではなく、魔力で操作できるマジックアイテム「的」をお互いに使い、それを狙って攻撃します。
元々は魔法使い同士の訓練で、怪我をしないようにするための方法として編み出されたようです。それがいつしか見世物に発展して、今やアレクシア王国の名物にもなっています。
実際の競技では、使用魔法の制限や4人対戦といったいろんなルールがあるのですが、授業でそこには触れないようでした。
臨時講師のアレンビー先生(?)が姿を現すと、集まったあたしたち生徒から黄色い声援が上がりました。アトリアさんの言う通りでとても有名な人のようです。さっき話しかけられた、なんて言ったらみんなにうらやましがられそうですね、くふふ。
「会ったことある子もいるかもしれないけど……、初めまして。アレンビー・ラドクリフです。去年セントラル卒業をして今は魔法ギルド『知恵の結晶』に所属しているわ」
「セントラルを、首席で卒業よ? みんなの目指すべき魔法使いの姿がここにあると思っていいわよ?」
アレンビー先生の自己紹介にティラミス先生が補足を入れていました。アレンビー先生が口を開くたびにどこかで声援が上がります。授業の雰囲気が明らかにいつもと違います。
「私は臨時講師だからあなたたちへ教えるのは2回だけ……、今日は的の操作方法と実戦的な動きの練習。次の授業では、模擬戦をやってもらうから今日の終わりに対戦するペアを決めてもらうわ」
先生の説明にあった次回の授業内容にみんなが少しざわつきました。アレンビー先生に見てもらいながらの模擬戦なんて緊張しそうですね!
あと、誰と戦うのか……、これがとっても大事です!
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