第33話 そこにある

 家まではシャネイラ様の付き添いの人が送り届けてくれた。


 私を助けてくれた女性がアレクシア王国最大の剣士ギルド「ブレイヴ・ピラー」のギルドマスター、シャネイラ・ヘニクス様とは、親から聞いてすぐにわかった。


 それから私はブレイヴ・ピラーの本部に足繫く通い、シャネイラ様に会おうとした。助けられたあの日は泣いてばかりでお礼のひとつも伝えられていなかったからだ。

 だけど、何度足を運んでも入り口で追い返さるばかりだった。「子どもの来るところじゃない」と言われ、門番の人はまったく取り合ってくれない。


 それでも何度も何度も足を運び続けた。そして、交代制と思われるどの門番にも顔を覚えられ、視界に入るとため息をつかれるようになった頃だ。



「いいか? 失礼のないよう注意しろよ? マスターが貴重な時間を割いて下さるのだからな?」


 門番から建物の一室へと案内された私は、そこで再びシャネイラ様と会うことができたのだ。

 シャネイラ様は私の顔を見るなり、仮面を外してそれを門番の男に預けた。そして、人払いをして私たちは二人きりになった。


「せっ…先日は助けていただきありがとうございました! 私はアトリア・チャトラーレと申します!」


「フフフ……。『アトリア』ですか、何度もここへ足を運んでいたそうですね? 先ほどの門番が私に教えてくれたのですよ?」


 シャネイラ様はとてもお忙しい方だ。私は単刀直入にここへ通い続けた理由を伝えることにした。お礼を言いたかったのだけど、もう1つ……、どうしても話したいことがあったのだ。


「私は! あなたのようになりたいんです! 私をシャネイラ様の元で働かせてもらえませんか!?」


 私は真っすぐにシャネイラ様の目を見つめて想いを伝えた。すると、とても優しい笑顔で彼女は応えてくれたのだ。


「アトリア……、よく聞きなさい。あなたはまだ子どもです。剣士ギルドのことも、私のこともまだよく知らないでしょう? ですから、まずはよく学びなさい。その上でもし……、ここで働きたいと思ったのなら腕を磨きなさい」


 シャネイラ様はこう仰った。自ら学び、理解をした上で剣士ギルド「ブレイヴ・ピラー」に入りたいというなら止めはしない、と。

 ただし、ここに所属できる者はいくつもの競争を勝ち抜いて選ばれた精鋭のみ。もし、私がそこまで登って来られたなら、その時は歓迎すると……。


「わかりました! 覚えておいてください、アトリア・チャトラーレの名を! 私は必ず自身の『力』で再びここの門徒を叩きにやってきます! シャネイラ様が認める力を身に付けて」



 魔法使いの道を志望していた。特に理由はなく、ただ、初等学校の成績で「適性が高い」と言われていただけだ。

 だけど、今この瞬間、私には明確な目標ができた。とても遠く高い存在かもしれないけど、たしかに目標が。

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