第30話 憧れの人

 午後の授業も座学でした! 新しい知識を頭にたくさん詰め込んだので、頭の中でテンペストが発生しています。「テンペスト」は風属性の上級魔法で、あたしが使える最上位の魔法です!


 今日の授業をすべて終えて寮のお部屋に戻った後はすぐに今日の復習に取り掛かります。覚えたての時にしっかりと反復して頭に定着させると忘れなくなる、と先生センセが教えてくれました。

 自分の部屋に入ると寝てしまいそうなので、アトリアさんとの共有のお部屋で勉強をします。



「……たくさん友達できそうじゃない? よかったわね?」



 アトリアさんが背中から声をかけてきました。あたしは笑顔で返事をします。彼女はきっと今日も剣術のお稽古にお出掛けするんだと思います。


「……勉強熱心ね、今日の復習?」


「はい! あたしは忘れっぽいので習ったことは必ずその日のうちに復習しています!」


「……それも先生の教え?」


「はい!」



◆◆◆



 スピカは部屋で魔導書グリモワを開いて勉強をしていた。尋ねてみると、新しく習ったことは必ずその日のうちに復習しているそうだ。

 朝の修行といい勉強への姿勢といい、魔法への努力とその熱量は誰にも引けをとらない子だと思う。


 たけど、シャウラとの模擬戦はお世辞にも褒められる内容ではなかった。とてもがんばり屋なのはわかったけど、残酷な言い方をすれば才能で他の子に劣ってしまっているのだろう。


 それでもセントラルに編入するくらいの実力があるのなら、平均以上の魔法使いにはきっとなれるはずだ。

 そんなふうに考えていると、ふと私は入学した日にアフォガード先生が仰っていたことを思い出した。



『――各人各様の思い描く未来があるはずだ。そこへ向かって、努力を怠らないように』



 私は魔導書を熱心に見入るスピカの背中に問い掛けた。


「……あなたは、どんな魔法使いになりたいの?」


 この問いかけに振り返ったスピカは、にこにこ……、いや、にやにやした表情に変わった。


「くふふ……、よくぞ聞いてくれました」


 妙にもったいぶった反応で、スピカはなかなか答えない。顔に似合わずちょっと不気味な「くふくふ」という笑い声をずっと発している。


「あたしの目標は先生センセみたいな、村でみんなに頼りにされる魔法使いになることです!」


 腰に手を据えて、とても誇らしげに彼女はそう言い放った。――と言われても、

をよく知らない私にはピンとこない。

 スピカは合わせて、彼女なりに先生のすごさを私に説明してくれた。だけど、よくわからない効果音と下手クソな説明と謎の形容詞ばかりで全然わからない。


「……その『先生』のお名前はなんて」

「アトリアさんはどんな魔法使いになりたいんですか!?」


 私の問い掛けはスピカの大きな声にかき消された。なんとなく、村の役に立ちたいのと目標にしている先生に近付きたいことだけはわかったけど……。


「……私の目標もあなたに似ている。目標の人に近付きたい、というところが」


「そうなんですね! アトリアさんの目標はどんな人なんですか!?」


 私は目標は、ずっと前から決まっている。果てしなく遠いけれど、どうしても近付きたい人。


「……剣士ギルド、ブレイヴ・ピラーの『不死鳥』、シャネイラ・ヘニクス様よ」

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