第29話 惹きつける

「……あなたといると退屈はしなさそうね?」


 お昼休み、食堂で昼食をとっているとアトリアさんにそう言われました。



「お邪魔しまぁす、スピカさんとティラミス先生の話、笑いを堪えるの大変でしたよぉ? おもしろい授業でしたね?」


 あたしの左隣りの席にポラリスさんがやってきました。右にアトリアさんです。2人の友達に挟まれて気分がいいです!



「まったくあのオカマ先生に『オカマですか?』は反則だろ? 笑いで腹が痛くなったのなんて久しぶりだぜ?」


 今度はベラトリクスさんが正面の席にやってきました。編入生が自然と集まりましたね! アルヘナさんだけ今日もいませんがどこにいるのでしょうか?



「あー! ここにいたわ! スピカちゃんだっけか!?」


 続いて、褐色肌にキレイな銀髪の女の子がやってきました。この人はたしか、昨日アトリアさんと模擬戦をしていた人ですね。お話するのは初めてです。


「おっと、初めましてだったな!? オレはゼフィラ! 昨日、横に座ってる編入生に負けた女だ、よろしくな!」


「……じゃなくて『アトリア』、覚えなさい」


 ゼフィラさんもティラミス先生とあたしの授業でのやりとりがおもしろくて声をかけてきたみたいです。

 学校生活3日目にして順調にお友達が増えています。本当に100人つくるのも夢じゃないかもしれません、くふふ。



 その後も、入れ替わり立ち代わり何人かの学生に声をかけられました。みんなティラミス先生とあたしのやりとりがおもしろかったようです。これは先生に感謝しないといけませんね! 男装するかはまた別の話ですけど。



「スピカさんはとっても人気者ね? さっきの授業は私もお腹がよじれそうで大変でしたの」


 あたしとアトリアさんの元には、ポラリスさんとベラトリクスさんが残って話をしていました。そこに現れたのはウェズンさん。なぜかアトリアさんとベラトリクスさんの表情が少し引き締まった気がします。


「編入生が集まってるわね? ちょうどよかったわ。お話しておきたいことがあるの」


 ウェズンさんは笑顔で話しながら、視線をアトリアさんに向けていました。どうやら彼女もそれに気付いたようです。


「……私になにか? ウェズン寮長?」


「編入生みんなになんだけど……、アトリアさんに大事なお話かなって思ったの。あなた、昨日も一昨日も夕方から外出していたでしょう?」


「……はい、外で習い事をしてますから」


 アトリアさんの表情がわずかに険しくなりました。それを察してか、ウェズンさんは笑顔をよりいっそう明るくしています。


「アトリアさんがどうこうって話じゃないの。昨日配られた魔導書グリモワの管理について忠告しておこうかと思って……」



「あー、の話ですか? 噂くらいなら聞いてますけど?」


 ベラトリクスさんが割って入りました。「魔導書狩り」とはなんでしょう?


 表情を見る限りだと、アトリアさんもポラリスさんも心当たりがなさそうです。もちろん、あたしも知りません。



「セントラルの魔導書は一部の……、闇の界隈で高額取引されているらしいの。だからね? セントラルの学生を狙う盗賊とかがいたりするの」


 盗賊!? なんだか怖い響きです。


 話を聞いてるみんな神妙な顔つきになっています。


「校内は警備もしっかりしているし、先生方もいるから安全だとは思うの。だけど、外出時はなにがあるかわからないわ?」


 ウェズンさんは、寮に住んでいる生徒なら外出時は魔導書を部屋に置いておくよう忠告をくれました。そして、私用で外へ行く際はセントラルの生徒とわかるものは身に付けないように、と言いました。


「ポラリスさんはたしか実家からの通いでしたわね? 帰宅の時はなるべく独りにならないように気を付けて下さいね?」


 ポラリスさんはウェズンさんの顔を凝視して何度も頷いていました。あたしは寮にいて、外出の予定も特にありません。ですが、今の忠告は心に留めておかないといけません。いつお外に急用ができるかなんてわからないのですから!

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