第6章 センセと不死鳥

第28話 属性術式と効果術式

 朝! 今日も6時に起きて魔法の修行を始めます。しばらくするとアトリアさんも起きてきました。突風に煽られたような髪形になっています。ちょっと笑いそうになりましたが、怒られる気がしたのでなんとか堪えました。



 お掃除は昨日と一緒でゴミ拾いですが、ルートを変えます。昨日もらった地図を見ながら青い線の引かれた道を歩いていきます。

 外は暖かい陽射しと涼やかな風が完璧なハーモニーを奏でています。朝のあたしは詩人のように頭が冴えていますね、くふふ……。


 朝食は昨日と似たメニューでしたが、ベーコンがソーセージに変わっていました。果物も昨日はオレンジでしたが、今日はピンクグレープフルーツです。スープもカボチャからコーンポタージュに変わっていました。


 今日は揉め事もなく、ゆっくりと食べられました。ソーセージが熱々でとてもおいしかったです! コッペパンは今日もしっかり3個食べます!



 アトリアさんは昨日帰りが遅くて心配でしたが、何事もなかったようです。心なしか昨日より表情が柔らかく、和んでいるように感じられます。この2日間でもう学校生活に慣れてきたのでしょうか……、さすがの一言です!



 今日からセントラルでの本格的な授業が開始されます。午前中は2コマ、どちらも座学です。「属性術式の応用」と「効果術式の応用」がテーマです。あたしたちは3回生なので「基礎」はすべて完了しています。なので、授業は「応用」ばかりです。



 「属性術式」は、標準魔法の基本となる、火・水・雷・風・土の5属性について学びます。魔法は、精霊との精神エネルギーの交換で発動するものですが、どんな魔法を発動させたいか、精霊にきちんと伝えないといけません。「術式」はその方法をまとめたものです。


 ただ、これを完全にマスターしても人と精霊には特有の相性があります。そのために得意・不得意の属性が分かれているのです。


 「属性術式の応用」の授業は、細い眼鏡をかけたエクレール先生が担当です。いかにも頭が良さそうな若い先生でした。スマートな体型に黒の紳士服がとても映えています。

 先生の授業はとても淡々と進んでいきます。しっかりノートをとっていかないと置いていかれそうです。



 「効果術式」は、自分や誰かを強化、あるいは弱体化したりする魔法について学びます。「もの」に特殊な効果を付与する、という意味でマジックアイテムにも応用できる技術です。

 魔技師志望のポラリスさんはひょっとすると得意分野かもしれません。


 「効果術式」の授業は、身体はムキムキで顔にいっぱいお化粧をしたティラミス先生でした。エクレール先生の授業とは真逆で、この授業は学生と対話をしながら進んでいきました。


 あたしは先生がオカマのように見えたので、「先生はオカマですか?」と質問しました。すると、先生は「心は淑女、肉体は紳士」と答えてくれました。やはりオカマのようです!


 あたしの質問に教室中はくぐもった笑いに包まれました。隣りのアトリアさんを見ると、下を向いて痙攣しています。お腹が痛いのかな、と思いましたが、抑えていたのはお口でしたので違ったようです。



「ええっとぉ……、スピカさんだったかしら? 魔法使いに女性が多いのはご存知?」


 ティラミス先生の低い声と、それと相反する口調で質問されました。


「はい! 精霊とのコンタクトは女性の感受性と相性がいいと、先生センセとアトリアさんに習いました!」


「そうね、魔法を扱う『感覚』は女性が優れていると言われている。だけど、術式の論理的構築は男性の方が優れていると言われているわ? それに効果魔法の『強化』は、実際の肉体強度に比例するものなのよ?」


「そうなんですね!」


「ええ、つまり男の肉体と頭脳をもち、女の感性をもつ者が魔法使いとして最も優れているのよ! ワタシですらまだ道半ばではあるけどね?」


「さすが先生です! あたしも努力しないとですね!」


「興味があったら男性ものの衣装もたくさん準備してるわよぉ? ワタシの研究室に来たら貸してあげるわ?」


「はい! それはもうちょっと考えてからにします!」



 あたしと先生が話している間、アトリアさんはずっと下を向いて震えていました。体調が悪くないか心配です……。

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