第27話 金獅子

 ブレイヴ・ピラーのキレイな女性は、普段この辺りをあまり訪れないらしい。今日はたまたまギルドからの依頼でやってきていた。

 時間のかかる任務を終えて帰路に着いたところで、盗賊に襲われている私を見つけてくれたらしい。


 この女性がどこに住んでいるか知らないけれど、セントラルの女子寮まで私を送ってくれた。なぜか校門の前でしばらく待っているように言われ、彼女が先にセントラルの中へと入っていった。



 しばらくして彼女は戻ってくると、笑顔でこう言った。


「多分、大目玉はくらわないで済むと思うよ? 私と一緒でよかったねぇ?」


 それだけ言って私に背を向けた。



「……あの、カレン・リオンハート様ですか?」


 背中を向けたままで、立ち止まる彼女。一時して腰に手を添えて振り返った。


「知ってたのかい? まぁこの格好だしねぇ……、知らなくても気付くか?」


 カレン様は笑顔で私の顔を見つめてくる。噂に聞く「金獅子」はもっと怖いイメージだった。だけど、今目の前にいる女性は厳しいけれど、優しい女性だ。


「……私は、アトリア・チャトラーレと申します! あの、私をあなたの弟子にしてもらえないでしょうか!?」


 カレン様は予期していない言葉を聞いたせいか、眉を八の字にして小首を傾げている。そして、また身を少しだけ屈めて私に視線を合わせてこう言った。


「今日私らが出会ったのは『偶然』だ? けど、もう1回どこかで会うことがあったら……、それはきっと『運命』。そん時がきたら考えてあげるよ?」


 私の肩を叩いて、右手を軽く上げて彼女は去っていった。これがブレイヴ・ピラー2番隊隊長、「金獅子」の異名をもつ、カレン・リオンハート。


 なんて……、なんてカッコいい人なのかしら。




 女子寮に戻った私を出迎えてくれたのは、笑顔のウェズン寮長。カレン様との別れの高揚感から一変、私は血の気が引いていくのを感じた。


「アトリアさん! 大変だったそうね? ブレイヴ・ピラーの任務に偶然居合わせてお手伝いをされていたそうではないですか?」


「……は…い?」


「先ほどアフォガード先生からお話を聞きましたよ? 魔法使いの力がいる現場に居合わせて、手助けをされていたとか?」


「……え、ええ。そうです」


「隊長の方が先ほど直々にお礼と謝罪に来られたそうですよ? 非常に助けられたのと、長時間拘束してしまって申し訳なかったと……」


「……」


「同じ寮の3回生として鼻が高いですわ。お疲れでしょうから、部屋でゆっくり休んでくださいね?」


 ウェズン寮長はそれだけ言って私の横を通り過ぎ、入り口の鍵を閉めていた。



 カレン様……、ありがとうございました。

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