第26話 可愛くない
視界に現れたのは、ブレイヴ・ピラーの衣装をまとった女性。それに、私にはわかる。施された刺しゅうの文様によって彼らは階級が識別できるのだ。
今この場に現れた女性は間違いなく、隊長格!
「あーっと、お嬢ちゃんは後ろの男に注意しな?」
彼女は男数名を間に挟んで、私に視線を送ってそう言った――、いや、視線の先は私のさらに後ろ……?
振り返ると、さっき転ばせた男がナイフの刃先を向けて突っ込んできていた。しかし、どう見てもナイフの間合いにはまだ遠い。私の木剣が先に男の刃を弾く。そして、間髪入れずに喉元を突き刺してやった。
吹っ飛んだ男は刺された喉を抑えながら声にならない声を上げて転げまわっている。さすがにもう起き上がってはこないだろう。私はすぐに振り返って残りの連中と対峙する。
……つもりでいたのだけど、そうはならなかった。
振り返ったときには、私が最初に倒した男の上にもう2人の男が重なって倒れていた。そして、一仕事終えたと言わんばかりに手を払う女性の姿。
今の一瞬で2人倒したの?
それも素手で……?
「お嬢ちゃん、とりあえずもうちょっと明るいところに行こうかねぇ?」
そう言ってブレイヴ・ピラーの女性は、ついて来い、と言わんばかりに私の横を通り過ぎると夜道をずんずん進んでいく。
私はこの場に伸びている男たちを一瞥した後、慌てて彼女の背中を追っていった。
「……ありがとうございました。お陰で、助かりました」
彼女の背中を追ってやってきたのは近くの駅前。元はといえば、剣術の稽古を終えてすぐにここへ来るつもりだったのだけど……。
助けてくれた女性は、明るいところで見るとブロンドの短い髪をしたキレイな人だった。腰には2本の剣をぶら下げている。
彼女はなぜか、お礼を言った私の顔をまじまじと見つめている。
「お嬢ちゃん……、かわいくないねぇ?」
「……えっ…と? それはどういう?」
キレイな女性はひとつ息を吐き出した後、にやりと笑ってから話し始めた。
「『助けないでよかったのに』って顔してるからねぇ? 自力でなんとかできたって顔だねぇ」
私はドキリとした。せっかく助けてくれたのに申し訳ないけど……、実際に私はそう思っていたからだ。
心の奥から悔しさと恥ずかしさが同時に溢れ出てくる。きっとこれも表情に出てしまっているのだろう。
「ちょーっとだけ見物してたけど……、お嬢ちゃんの剣の腕はたしかに相当なモンだと思うよ?」
「……それでも、割って入ってこられたのは、私が負けると思ったからですか?」
私は失礼と思いつつも、思ったことをありのまま口に出していた。なぜかこの人とはきちんと話しておくべきだと心の声が聞こえたような気がする。
「まぁ……、なんていうか、間違いがあったら怖いと思ったのはあるけどねぇ」
彼女はそう前置きした上で、さらに話を続けた。
「けど、ちょっと相手を甘く見過ぎていたかな? 街のならず者なんて取るに足らないと思っていたろ?」
「……はい、その通りです」
「けど、お嬢ちゃんの一手を受け止めた奴は意外とデキる奴だった。ならず者風情でも、元は騎士やら剣士なんてのも大勢いるからねぇ?」
先ほど争った場所の方角を見ながら彼女は呆れた表情を見せている。
「さっきまでのお嬢ちゃんだったら……、私が小汚い服着て襲ってきたとしても正面から迎え撃とうとするだろう? 印象だけで相手の技量をはからないことだねぇ?」
どうだろう? たしかにこの人はその服装でブレイヴ・ピラーの――、それも隊長格とわかった。
だけど、知らなかったとしたら……、私はこの人にも勝てると思っていた?
「お嬢ちゃんが得意の魔法を総動員しても、私は負けない自信があるよ? 魔法剣士に関しちゃ、どエラい知り合いもいるからねぇ。くっくっく」
彼女はひとりで一時笑った後に、少し屈んで私に目を合わせた。
「でも、剣の腕は自信もっていいよ。まだまだ伸びるだろうしねぇ」
さらに彼女がなにか言おうとしたところで、路面電車の灯りが近付いて来た。
「さてと、お嬢ちゃん。お
とてもありがたい彼女からの申し出。でも、この瞬間私はまったく別のことを考えていた。笑顔の裏に威圧を含ませる寮長の顔が浮かんでくる。
「……あの、今何時でしょうか?」
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