第25話 機先を制する

 少しずつにじり寄ってくる男たち。動きをよく観察して最初に動く男の「初動」を見切る。相手の動く意思を察して機先を制する。盗賊だかなんだか知らないけれど、ならず者風情に後れをとるなんてあり得ない。


 一応、私が木剣を持っているせいか、不用意に男たちは仕掛けてこないようだ。こちらとしては早くしてほしいのだけど? ウェズン寮長の笑顔が脳裏にチラつく。



 ほんの一瞬……、私の心がここからお留守になったとき、ナイフを持った男が襲い掛かって。だけど、実際に男が仕掛ける前に私は踏み込んだ。


 男のこめかみに木剣で一閃!


 姿勢が崩れたところを右足で蹴り飛ばす!


 最初の一撃で意識を飛ばしたであろう男の体は後ろに吹っ飛び、背後の湾刀を持った男を巻き添えにして倒れた。


 素早く倒れた男どもの後ろにまわり込んで、木剣を構える。これで相手を一方向にまとめられた。挟み撃ちはない。こうなれば、いっそ背を向けて逃げてもいいのだけど、それはプライドが許さない。


 倒れた男とは別のナイフ使いが襲ってきた。だけど、動きは直進的で軌道が手にとるようにわかる。身を翻して躱し、同時に足を引っかけたら子どもみたいに転んでくれた。


 そのまま正面にいる湾刀の男を木剣で薙ぎ払う!



「……っ!!」



 私の一撃は、相手の湾刀に弾かれていた。


 迂闊だった?


 思っていたより反応がいい男がいたみたい。


 すぐさま次の一手を繰り出すつもりでいた。けど、ここで嫌な気配を察知した。


 魔法の予兆? 精霊のざわめきを感じる。


 一体どこから……?


 あの老人……!?


 道案内した老人は魔法を使えた? 私としたことが完全に戦力を見違えてしまった。


 状況を整理し直す。


 正面には多少剣の心得がある湾刀の男。その後ろには最初の一撃で気絶した男と、その巻き添えで倒れた男。こっちはきっとすぐに立ち上がってくる。そこから少し距離を置いて魔法を使おうとしている老人。

 そして、私の後ろには転んでいる男。ダメージはあまりないだろうからきっとすぐに起き上がってくる。先にこの男を気絶させるべきだったか……。


 自分の判断ミスを悔やみつつ、次にとるべき行動を考える。警戒すべきは老人の使う魔法が何なのか?

 この状況だと単純な攻撃魔法より妨害系のほうが厄介。予兆から魔法の系統を探る……。


 ……?


 魔法の気配が……消えた?


 次の瞬間、この場にとても不釣り合いな明るく大きな声が響いてきた。



「たまたま帰りが遅くなったらこれだよ? まったく嫌になるねぇ?」



 さっきまで立っていたはずの老人はいつの間にか倒れていた。そして、同じ場所に今は背の高い女性が立っている。私は彼女の姿を見てこの目を疑った。


 この国に住む者なら誰もが知っているであろう、黒を基調に金色の刺しゅうが施された服。剣士ギルド「ブレイヴ・ピラー」の衣装をまとった女性の姿がそこにはあった。

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