第21話 決着!
スピカのローブは土埃を盛大に浴びて真っ白に汚れていた。しかし、負傷をしている様子はまったくない。攻撃を放ったシャウラはその状況が理解できないでいた。
彼女と同じく、周囲で見物していた学生たちも「わけがわからない」といった様子だ。
アトリアとベラトリクス、そしてポラリスはそれぞれに疑問の表情を向けた後、スピカの方へと視線を送った。
「……まさかと思うけど、今のグレイシャーも外れた?」
アトリアは、まるで自分に疑問を投げかけるかのように呟いた。
「今のも外したってか? 詠唱速度や間合いのとり方は相当なレベルだってのに、狙いだけはずいぶんとお粗末な女だな?」
ベラトリクスは思ったままを口にしつつ、頭の中ではアトリアの発言について考えていた。そして、今の状況をもっともうまく説明できるのはシャウラが魔法を外した、の結論に達する。
彼らより少し遅れてシャウラ自身もその結論にいきついていた。しかし、魔法を放った張本人としては受け入れがたい話でもあった。
『今のも外したの? この私が……? 今日2度目よ、一体どうしちゃったのよ、私さ?』
心の乱れを戻せないままにスピカと改めて向かい合うシャウラ、対するスピカは決して余裕はないのだが、口元は笑っている。
ここまでの流れを見れば、シャウラが決定打を外しているだけであり、スピカは明らかに押されている。――にも関わらず、彼女はこの状況すら楽しんでいるようだった。
両者の様子を見てウェズンは潮時かと思った。技量でみると明らかにシャウラが優れているよう見える。スピカが正面から攻めるだけではシャウラの守りを突破できないだろうと……。
だが、一方のシャウラはなぜか「狙い」においてのみ精彩を欠いている。このまま戦いを続けてもお互いに消耗して長引くだけだと判断したようだ。
「はいはーい、2人とも! シャウラさんはちょっと調子が悪いみたいだし、スピカさんはローブが真っ白になってしまっているわ? 今日は引き分けってことでどうかしら?」
視線を交差させているシャウラとスピカ、その間にウェズンは立つ。スピカにとってこの模擬戦はあくまで単なる練習、審判のウェズンに大人しく従う様子を見せた。
だが、シャウラは納得がいかなかった。
「ウェズンさん、続けさせてください。たしかに今日の私は調子が悪いようです……。でも、引き分けなんて納得いきません!」
笑顔のウェズンはシャウラに歩み寄る。そして、手が届く距離まで近付いてから小さな声で囁いた。
「――編入生を晒し者にする目論見が外れたからって……、意固地にならないでほしいの?」
ウェズンはいつでも、今この瞬間も笑顔を崩さない。しかし、彼女がどれほど優れた魔法使いで、ウェズン・アプリコットを敵に回すのがどれほど危険かをシャウラは理解していた。
「……わかりました。今日はここまでにします」
俯き、小さな声でシャウラは呟く。その声はなんとかスピカの元へも届いていたようだ。
「あっ…ありがとうございました! また是非お手合わせをお願いしますです!」
有り余った元気を声に乗せて、スピカは深いお辞儀とともに挨拶をした。シャウラはそれには応えず、無言で背を向けて立ち去って行く。
「授業でも模擬戦はあると思うの。おふたりの決着は次回に持ち越しね?」
ウェズンはそう言ってスピカに笑顔を向けると、今度は彼女に歩み寄ってローブの埃を叩き落とすのだった。
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