第20話 決着?

 あたしは、目の前に突き刺さる氷の槍を見つめていました。危なかったです、真正面から魔法が飛んできたので避ける方向を迷ってしまいました。狙いが正確でしたら、今ので終わってしまっていたかもしれません。うむむ……。


 ただ、今のでシャウラさんは氷の魔法を使うのだとわかりました。あの詠唱速度で不得意な属性、なんてことはないでしょうから間違いありません!


 次はあたしの番です! アトリアさんとベラトリクスさんが勝ったのですから、ここで負けるとすごくカッコ悪いです。それにしっかりやらないと、せっかく練習へ誘ってくれたシャウラさんにも申し訳ないです。お互い成長するためには力を出し切らないと、です!



 まずは的を絞らせないように動き回ります! そして、相手の所作や周囲の精霊の気配にも意識を向けます。

 魔法使い同士の戦いは、予兆をいかに感じ取るかの戦いでもあります。魔法が放たれた後では気付いても避けれないことが多いのです。


 あたしはシャウラさんの周りを、円を描きながら時々スピードを変えて駆けまわっています。彼女はあたしに身体の正面を合わせて、じっと目で追ってきています。ですが、攻撃を仕掛けてくる気配はありません。


 止まると狙われそうですが、このままだとあたしの体力が減っていく一方です。持久走なら負けない自信もありますが、シャウラさんは止まっているので勝てるわけありません。


 ――なので、こちらから仕掛けます!


 走りながらでも呪文の詠唱はできます。ですが、中級以上は発動前に気付かれたら狙われてしまいそうですので……、こちらもお返しで下級魔法から攻めていきます!



「いっけー! エアロカッターっ!!」



 足を踏ん張り、走っていたところに急ブレーキをかけます。地面を滑りながらで魔法を撃ちましたが方向は悪くなさそうです!




◆◆◆




「……遠い」


 アトリアは、スピカが魔法を放った瞬間にそう呟いた。スピカのスティックから放たれた風の刃は、空気を切り裂いてシャウラの元へ真っ直ぐに向かっていく。しかし、それは目的の場所へ辿り着く前に勢いをなくし、消失してしまった。


 逆に、シャウラはこの隙を逃さなかった。自身に向けられた魔法が、ここまで届かないと判断すると即座に攻撃態勢に切り替える。魔法使いにとって、魔法を使った直後が最大の隙になるからだ。

 消えゆくスピカのエアロカッターに合わせるように前へと走り出し、一気に射程内に飛び込む。


「次は外さないわ! 終わりよ! グレイシャー!」


 シャウラの前に現れたのは美しく巨大な氷塊、その矛先をスピカに向けて高速で発射される。彼女が放ったのは氷属性の中級魔法、攻撃を繰り出したばかりのスピカは防御の態勢が整っていない。

 その光景を見ていた誰もがスピカの直撃、そして敗北を疑わなかった。



 土埃を巻き上げ、粉塵と冷気を混ぜ合わせた空気が轟音とともに吹き乱れる。数秒の間、視界は閉ざされていたが、シャウラは勝利を確信していた。


『あの状況から躱しての反撃もありえなくはないと思ったけど――、さすがに考えすぎだったようね……』


 しかし次の瞬間、シャウラは精霊の気配を察知する。土煙を切り裂いて風の刃が向かってきたのだ。

 すんでのところで、彼女は魔法結界でそれを防いだ。念のため、防御の態勢を整えていたのだ。ただ、彼女は驚きを隠せなかった。中級魔法をまともにくらって即座に反撃をしてくるなんて考えられなかったのだ。


 自然の風が土煙を散らし、視界がようやく戻ってきたとき、グレイシャーの直撃によって抉られた地面の少し後ろに立っているスピカの姿があった。その姿はどう見ても無傷だった。

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