◇間奏3

 スガワラがブレイヴ・ピラーの地下でブリジットと話をしている頃、まったく別の場所で、同じく囚われの身の人間と話をする者がいた。そこは、アレクシアの一角にある罪人を収容した施設だった。



「よう、ブタ箱生活はどうだい? ――って言ってもまだそれほど日が経ってないかねぇ?」


 ここは囚人との面会用に設けられた小さな部屋。灯りの少ないその中で、不釣り合いな明るい声が響いてくる。


「まさかカレンちゃんがこんなに早く会いに来てくれるとは思わなかったよ? もう口も聞いてもらえないと思っていたくらいだしな……」



 言葉を交わす2人の男女、囚人に会いに来た女性は、カレン・リオンハート。剣士ギルド「ブレイヴ・ピラー」の2番隊隊長を務める剣士であり、ラナンキュラスの幼馴染でもある。

 囚人の男の名はトゥルー、彼女と同様ラナンキュラスの幼馴染であり、王国の騎士団に所属していた。


 トゥルーは雰囲気こそ影を帯びているが、笑顔で話をしている。


「髪をずいぶんと切ったんだな? また違った魅力が見えるようになったよ」


 カレンはブロンドで、ウェーブのかかった髪をしている。元々それほど伸ばしてはいなかったが、それでも顔の輪郭を覆う程度の長さはあった。

 今は、首回りがすっきりと完全に空いていて、耳を半分隠す程度の長さしかない。幼少の頃を含めても彼女がこれほど髪を短く切ったことはなかった。


「うん……、まぁ気分転換だねぇ? さっぱりして案外いいもんだよ」


 2人は旧知の仲だ。――にも関わらず会話は一言ひとことに間が空き、とてもぎこちない様子だった。そして、共に無理して明るく振るまっているのが伝わってくるのだ。


「カレンちゃんの顔を見られるのはとても嬉しい……。だが、君の立場を考えるとあまりここに来ない方がいい」


 トゥルーは、先ほどまでずっと俯き加減だったが、この言葉を言ったときはまっすぐにカレンの目を捉えていた。

 それに薄い笑みを浮かべて答えるカレン、彼女は彼がこうした言葉を投げかけてくると最初から予想できていたようだ。


「ふん、自惚れるなよ? そうしょっちゅう顔を出すつもりはないよ、こんな目付の悪いやつばっかりいるとこにはねぇ?」


 トゥルーは彼女の返事に呆れた表情を見せる。


「ただ……、私はあんたを一発ぶん殴らないと気がすまないんだよ? そこにいられたら手ぇ出せないだろう? だから、外で待っててやるよ?」


「ははっ……、それはそれは、手痛い歓迎になりそうだな。いつになるかわからないぞ?」


「しっかり温情をもらえるよう勤めるんだねぇ? 今日はそれだけ伝えに来たんだ」


 そう言ってカレンは立ち上がり、名残惜しそうな素振りも見せず、彼に背を向けた。


「……ありがとう、カレンちゃん。いつか必ず、オレの方から会いにいくよ」


 トゥルーの言葉に、彼女は背を向けたまま軽く右手を上げて答え、薄暗い部屋を後にした。

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