第15話 怪物の再来

 セントラル魔法科学研究院の敷地内には2つの演習場が設けてある。第1演習場は、授業のみの利用に制限されている場所で、街中や森などのさまざまな地形を再現した仕様になっている。

 一方の第2演習場は広大で平坦な、なにもない土地だった。そして、今ここに3回生の多くの魔法使いが集まってきている。



「なっ……なんだか人がたくさん集まってますよぉ? 大丈夫でしょうか?」


 ポラリスは落ち着きのない様子で、キョロキョロと周囲を見回しながらアトリアに問い掛けた。


「……予想はできていたわ。ポラリス、あなたは魔技師の志望でしょ? 実戦的な魔法は専門外でしょうから見物してなさい」


 ここに集まっているのは研究員志望のアルヘナを除いた編入生4名。彼女たちは、同じ3回生の生徒から3対3の魔法の模擬戦に誘われたのだった。

 ポラリスが外れるとなれば必然的に戦うのは、アトリア、ベラトリクス、スピカの3名となる。


「おうおう……、揃いも揃って編入生のお手並み拝見ってか? 暇な奴らだぜ、まったくよ」


「……逆にいい機会だわ。ここできっちり叩きのめしてやればもう絡んではこないでしょう?」


「せっかく一緒に練習できるんです! アトリアさんもベラトリクスさんも楽しんでいきましょう!」



 彼女たち3人が各人各様の想いを固めたところで、模擬戦へと誘った女子生徒が歩み寄って来る。


「ルールはどうする? 1人ずつ戦うのがいいとは思うんだけど?」


「……別に。死なない程度に撃ち合ったらいいでしょう? そっちがいいならの話だけど?」


 アトリアの挑戦的な返答に話しかけた生徒は、わずかに表情を歪ませた。


「あっそう……、明日からまともに授業受けれなくても文句言わないでよ?」



◇◇◇



 第2演習場の様子を研究棟の1室から見下ろす3人の人影があった。彼らはいずれもこの学校の教授を務める者たち。3回生の学年主任アフォガードもそこにいた。



「もう毎年恒例になっているんじゃなぁい? 進学組と編入生との模擬戦?」


 鍛え抜かれた逆三角形の体躯、だが、その身体の肌の色とは明らかに違う不自然な白い顔に、目の上は青のアイシャドウ、浮き出るようにはっきりした赤の口紅をしたが、女性のような口調でそう言った。


「双方にプライドがあるのだろう。競争率の高い入学試験を乗り越え、2年間この名門で学んできたプライドと、異なる環境で学び鍛え、厳しい編入試験を突破してきたプライドが……」


 彼に答えたのはアフォガード。この学校の教授たちは、進学組と編入生の争いを過去に何度も目にしているのだ。


「しかし……、今年はずいぶんと早いですね? 新学期が始まってまだ2日目ですよ? 競い合い高め合うのは大いに結構ですが、揉め事は遠慮願いたいですね?」


 もう1人は細い黒縁の眼鏡をかけた、いかにもインテリ風の男。彼ら3人は会話を交わしながらもその視線は、第2演習場へと向かっていた。


「こほん……、今年の3回生は大きな揉め事を起こさない……、いや、起こせないだろう。風紀委員の『あの子』がいるのだから」


 アフォガートの言葉に、その場に一瞬の静寂が流れた。少しの間を空けた後、口を開いたのは眼鏡の男だ。


「ウェズン・アプリコット……、あの『ローゼンバーグの再来』と呼ばれる女子学生ですか」

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