第14話 己の心には正直に
アフォガード先生の共通講座はとても大変でした。なぜならずっと座ったまま話を聞くだけだからです。
あたしは座学がとても苦手です。じっとしているのも、静か過ぎるのも得意ではありません。ですので、たくさん質問をしました。幸い最前列の席にいたので、先生はあたしの挙手にすぐ気付いてくれます。
先生の声は小さくて、後ろまで聞こえているか不安になりますが、質問にはきちんと答えてくれます。見た目から漂う雰囲気はちょっと怖いですが、とてもいい先生のようです。
質問の内容がおかしいのか、後ろの席から何度か笑い声が聞こえてきました。ですが、わからないのは仕方ないのでどんどん質問をします。
疑問に思ったことはその場で尋ねるように、とお母ちゃんにも言われてきました。
授業が終わりに差し掛かる頃には、あたしが手を上げるだけで笑い声が響くようになりました。隣りのアトリアさんは少し険しい顔をしていましたが、あたしはまったく気になりません。
「さて……、今後の授業内容の説明は以上。本日の共通講座はこれにて終了なのだが」
アフォガード先生のお話が終わり、教室の空気が緩みました。どうやらこれでおしまいのようです。けれど、先生の話は「だが‥…」で止まり、まだ続きがあるようです。
「私には今日の授業にそれほど笑える内容があったと思えない。が……、他人に同調するばかりの者より、己の心に正直な者の方が成長は望めるだろう」
それだけ言い残して、先生は教室を出て行かれました。
「よかったですね、今のスピカさんを褒めていたんだと思いますよ!? 私もたくさん質問してくれたお陰で疑問がいくつか解けましたよぉ」
ポラリスさんは、アトリアさんを挟んであたしの顔を見ながら嬉しそうにそう言いました。
「……質問の中身に疑問はあったけど、嘲笑うだけの連中よりは遥かにマシだと思うわ」
「おう! オレもスピカと
あたしたちと微妙に距離をとって座っていたベラトリクスさんからも声をかけられました。
なんだかわかりませんが、みんなから褒められています。お役に立てたみたいでとっても嬉しいです!
「ねぇねぇ、あなたたちみんな編入生でしょ?」
あたしたちが横並びでお話をしていると後ろから声をかけられました。振り返ると、切れ長の目をした美人だけどちょっぴり怖そうな顔をした女の子が立っています。キレイな茶色のストレートヘアーが胸の辺りまで伸びています。
「私たち、これから魔法の実戦練習するんだけどさ、人数ちょっと足らないのよ?よかったらあなたたちも混ざらない?」
なんと! いきなり練習のお誘いです。魔法の練習は1人ではむずかしいものもたくさんあります。編入してきたばかりのあたしたちを誘ってくれるなんてとてもいい人ですね!
ところが、あたしが喜んで返事をしよとしたところをアトリアさんが手のひらを向けて制しました。
「……なんで私たちなの? 面識なかったわよね?」
アトリアさんは立ちあがって、睨むように女の子の顔を見ています。なんだが、食堂の時と同じような雰囲気を感じます。
「別に? あなたたち相手ならおもしろいかなって思っただけよ? 編入生の実力ってどんなものなのかなって?」
「……やっぱりそういうこと。悪いけど、私、そんなに暇じゃないから」
アトリアさんは、背中を向けて教室を出ようと歩いていきます。席に座ったままのあたしやポラリスさんにも目で促してきます。ベラトリクスさんもいつの間にか立ち上がっていました。
「ちょっとちょっと? 軽く腕試ししようってだけなのに逃げる気なの? 程度が知れるわね?」
話しかけてきた女の子は、急に大きな声を上げてそう言いました。まるで、教室にいるみんなに聞かせるかのように、です。
すると、明らかに不機嫌そうなベラトリクスさんが彼女の前に歩み出ていきました。
「おい? 誰だか知らねえが、ちょっと顔がいいからって調子に乗るなよ?」
「まあ怖い!
ベラトリクスさんの顔の不機嫌度合いがさらに増した気がします。今度はウェズンさんが来てくれる気配もないので、私が仲介に入るしかなさそうです!
「……そっちは何人?」
あたしが間に飛び込もうと決心した時、アトリアさんが先に割って入りました。
「そうね? 3人で1人ずつ戦ってみるなんてどうかしら? もちろん『練習』なんだけどね?」
アトリアさんはそう答えた彼女の顔を見つめながら、小さな声で返事をしました。
「……いいわ。受けましょう」
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