第4章 編入生VS進学組
第16話 模擬戦開始!
第2演習場の中心には、ベラトリクスと対戦相手の男が睨み合っていた。――正確には、ベラトリクスが一方的に睨んでいる感じではあったが……。しかし、双方に「練習」の気配はまったくない。
「一応名乗らせてもらうよ、僕は、サイサリー・アシオン。君は?」
サイサリーは、濃い茶色のくせ毛が顔全体を覆うような髪形をした優男だった。相手を嘲るような笑みが、睨みつけるベラトリクスとは対照的だ。
「ベラトリクス・ヌーエン! 相手が野郎でよかったぜ? 顔がいい女だと実力半減しちまうからよ?」
彼らは手を出せば届く距離で互いの顔を見合った後、同時に背を向けてゆっくりと距離をとっていく。お互いが適度な距離――、牽制に使う魔法のぎりぎり射程か否かの位置関係で再び向かい合い、臨戦態勢に入った。
両者が構えるのは、セントラル入学と同時に支給される専用のスティック。魔力の伝導率が高く、魔法の初心者から上級者まで扱いやすい一品だ。
生徒間で始まったこの模擬戦には審判がいない。試合開始の合図もなく、どちらかが口火を切ればそれが始まりの知らせとなる。
「ドキドキしますね! ベラトリクスさんは雷が得意と言っていました! 一体どんな戦いを見せてくれるのでしょうか!?」
目を輝かせて2人の姿を見守るスピカ。緊張した面持ちで見つめるアトリアやポラリスとは明らかに違っていた。
「ス…スピカさんは緊張してないんですか?」
ポラリスは彼女に問い掛ける。表情や言動、そのどれもが周りと比べて異彩を放っているからだ。この後、自分の戦いも控えているというのに、だ。
「模擬戦はとてもおもしろいですし勉強にもなります! 今からあたしは自分をベラトリクスさん、だと思って試合を見るつもりです!」
「……緊張感はともかくとして、捉え方は悪くないと思うわ」
アトリアはちらりと横目でスピカを見てから、視線をベラトリクスへ戻し、小さく呟いた。
「……失礼極まりない男だけど、今だけ応援してあげるわ」
先に動いたのはサイサリーだった。
「――グラベル!」
彼は声とともにスティックをベラトリクスの方向へと差し向けた。すると、突如、中空に姿を現した無数の
しかし、サイサリーの魔法が着弾する頃には、彼はその場を離れ左へ弧を描くように走り出していた。
「ふん、予兆の察しくらいはそれなりにできるみたいだね?」
ベラトリクスはサイサリーを軸にするようにして、時計回りに円を描いて走っている。しかし、彼との距離は一定のままだった。
『下級魔法とはいえ……、詠唱
サイサリーは、スティックの先でベラトリクスを追いながら魔法の発動準備だけを整えて動かずにいた。
『射程距離にそれほど差はないはずだ。詠唱速度ならきっと僕に分がある。牽制しつつ、向こうがしびれを切らすのを待てばいいだけさ』
「ベラトリクスさんのお相手の人、詠唱速度がとても早いですね!」
スピカは感心するように声を上げる。彼女の中では、どちらを応援するとかはないのかもしれない。相変わらずキラキラした眼で2人の男の姿を追っていた。
「……そうね。それで? ベラトリクスの気持ちになってるあなたならどう戦うの?」
「うーんと……、わかりません! 私は雷の魔法あまり使えませんので!」
「……あなたね」
アトリアはため息をつく。隣りにいるスピカについてまだ図りかねているようだった。
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