◇間奏2
剣士ギルド「ブレイヴ・ピラー」本部の地下、ここに幽閉されている男の名は「ブリジット」。この組織に恨みをもつ者たちを扇動し、その破壊を企てた男である。計画は失敗に終わり、彼は自ら命を絶とうとしたのだが、それすらも失敗に終わってしまったのだ。
さらに彼は、面会に来たスガワラと同じく、別の世界から転移してきた人間でもあった。
「ユタカがわざわざ僕に会いに来るとは意外でしたよ? 僕の2回目の転生は、残念ながら失敗に終わったようです」
スガワラはわずかに首をまわして横目で鉄扉の方を見た。ここに入る前、会話の内容は記録される、と聞いたからだ。彼ら2人の出自については、この世界の住人に話していないのだ。
彼の仕草でブリジットはその意味を察した。おどけた表情で、手のひらを上に向けて見せたが、これ以上「転移」について話すつもりは無いようだった。
「私はただお前の無事を確認したかっただけだ。治療してくれたここの人たちに感謝しろ」
ブリジットはスガワラの言葉を聞いて天を仰いだ。
「はっきり言って最低の気分ですけどね。ここの連中は大嫌いですから。ただ、連中は僕になにか利用価値を見出したんでしょうけど?」
スガワラには、彼の言葉の意味がわからなかった。ゆえにそのまま疑問を投げかけた。
「僕が仕掛けたここの襲撃、連中はきっと僕以外の『何者か』の力が関与していると思っている。そして、恐らくそれは外れじゃない」
ブリジットの言葉に、スガワラは動揺を隠せなかった。
「待て、お前はブレイブ・ピラーへの襲撃を自分の企てだと話していた。組織をつくらず、ただ情報だけ流して人々を扇動したんだと言っていただろう?」
スガワラは、彼が暗躍したブレイヴ・ピラー本部への襲撃をその目で目撃し、首謀者であるブリジットから直接その話を聞いていた。そこに別の勢力の関与があったような話はなかったはずだ。
それを目の前にいるブリジット本人が否定している。それも「恐らく」と、曖昧なかたちでだ。
「襲撃自体は僕が扇動したものです。――だけど、その過程が上手くいきすぎているとは思っていたんですよ? いくら『情報屋』を名乗っていたとはいえ、それに簡単に乗せられすぎだとね?」
ブリジットは、「ブレイヴ・ピラー」という組織へ敵対心を抱く者たちへ、本部が手薄になるタイミングの情報を流した。たったこれだけのことだが、それを大量の人間に向けて一斉に行ったのだ。
あとは、集団心理の火付けを担うために、本部への最初の襲撃者に多額の報酬を準備した。
それによって、この組織への報復の機会を窺っていた者たちが集まり、暴動を誘発させた。
彼の目論見は、危機を察知したギルドマスターのシャネイラと、ここを代表する剣士グロイツェル、彼を筆頭とした1番隊の剣士たちによって不発に終わったわけだが……。
「あの襲撃はお前だけの力じゃないと言いたいのか?」
スガワラの問い掛けは、鉄格子の向こう側によく響いていた。
「あくまで予想ですが……、僕の目的に気付いてひっそりと加担していた『何者か』がいる気がしています。それが単身の誰かなのか、組織なのかはわかりませんが?」
スガワラは思わず息を呑んだ。目の前にいるブリジットすら知らないところに得体の知れない「悪意」を感じたからだ。
「今の話をどう利用しようと自由ですよ? どうせ記録は取られていると思いますしね? 傷の治療代くらいになったら貸し借り無しで嬉しいんですけど?」
ブリジットは目の前の男にではなく、扉の向こうにいるであろう姿の見えない「誰か」に向かってそう言っているようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます