第2章 始まりの朝
第6話 ルームメイト
セントラル魔法科学研究員には寮があります。入寮は必須ではありませんが、あたしみたいに遠方から来ている人はみんなここに住んでいるようです。学年ごとに場所が分かれており、今の4回生が卒業すると次の1回生がそこに入る仕組みのようです。
寮では、大きなお部屋を2人で使います。事前に荷物をまとめて送っていたので、今はそれの荷ほどきをしてお部屋を整理しているところです。
「……なんで自己紹介なんか?」
あたしと同じく荷ほどきをしているアトリアさんが背中から声をかけてきました。そうです、あたしはアトリアさんと相部屋なのです!
「お父ちゃんが言っていたんです! 学校で出会う友達は一生の友達になるから大事にすべしと! たった5人しかいない編入生です! 仲良くしたいと思いまして!」
アトリアさんは黙々と荷ほどきをしています。ですが、彼女から話しかけてきたのです。きっとなにか返事があるはず。あたしはそれを期待して待ちます。
「……友達、なんて言ってたら足元すくわれるわよ?」
アトリアさんはあたしの方を見ずに、箱から荷物を出しながらお話をしています。きっとお荷物が多いのでしょう。あたしは話をすると手が止まってしまうので、彼女を見習わないといけません。
「あたしは遠くの村からここへ来たのでお友達がいないんです。なので、まずはお友達をたくさんつくりたいんです!」
「……アフォガード先生も仰っていたでしょう? セントラルは学生同士の競争の場よ。周りにいる子たちはみんなライバル。特に私たち『編入生』は……」
「編入生は……」から続きがありそうな雰囲気でしたが、アトリアさんはそれ以上なにも言いません。なにか言おうとして忘れてしまったのかもしれません。あたしにはよくあることです。
「アトリアさんはあたしの最初のお友達です! これからもよろしくお願いしますね!」
あたしはアトリアさんと一緒の部屋でとても嬉しかったのです。朝、彼女が声をかけてくれなかったら、今ここに辿り着けていなかったかもしれないのですから……。
いっぱい話しかけてしまうのも、この感情をどうにか彼女にもわかってほしいからなんだと思います。
アトリアさんの口からため息が漏れたような気がしました。きっと荷ほどきに疲れたのでしょう。あたしはお引越しの経験がありませんでしたので、お部屋を整えるのがこんなに大変とは思いませんでした。
しかし、荷ほどきのペースは圧倒的にアトリアさんが早く、どうやら彼女は荷物をあらかた出し終わったようです。お母ちゃんに「口を動かす前に手を動かす!」とよく叱られたのを思い出しました。
すると、彼女はこちらを向きました。お話をしているときは全然こっちを見なかったのに……。
よく見るとその手には木剣が……!?
あたし、なにか怒らせるようなことを言ったでしょうか? まさか入学初日にしてルームメイトの逆鱗に触れてしまったのでしょうか?
「あっ…アトリアさんっ! 落ち着いてください! あたしがうるさいからですね!? もう少し静かにします! ですからどうか暴力は――」
あたしは拝むような姿勢で両手を合わせて下を向き、目を瞑っていました。真っ暗な世界で静寂のときが流れます。
しかし、アトリアさんからの反応はなにもなく、恐る恐る顔を上げて片目だけ開けると、彼女は手にもった木剣をくるくると布に包んでいました。
「……私、城下で剣術の稽古を受けてるの。これから行ってくるから、帰ってくるまでにお部屋キレイにしといてね?」
それだけ言うとアトリアさんはお部屋を出て行きました。
魔法学校に通いながら剣術のお稽古! なんと自己研鑽を欠かさないお人でしょうか、アトリアさん! あたしも見習わなければ!
そのためにもまずはお部屋をキレイに整えましょう。「お友達」が帰ってくる前に!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます