第8話:正妃殿下の恐るべき決断

「もうどうにもなりませんわよ、陛下」


 生死の決断を口にしようとした国王だったが、救いの神が現れました。

 私をヴェロニカ王女殿下の姫騎士に抜擢した正妃殿下です。


 正妃殿下は王太子や国王は違って、厳格さと威厳を醸し出すために、慎ましいが洗練されたスタイルを好みます。


 殿下の衣装は堂々としたシルエットとクリーンなラインが特徴であり、装飾や刺繍は控えめです。


 王妃殿下は深い色合いのドレスを選ばれます。

 王権の象徴であるような深みのある色調を好まれます。

 素材は高品質で上品なものを選び、しっかりとした生地で作られています。


 今日は濃紺を選ばれ、襟は高く肩や腕を覆うようにデザインされています。

 袖はシンプルな長めですが、広がりを持たせずにすっきりとした印象を与えます。


 ボタンや縁取りには金や銀の装飾が使われ、細かな刺繍やレースで飾られることもありますが、それらは控えめで王妃の威厳を引き立てる役割を果たしています。


 髪型はしっかりとまとめられており、凛とした表情を際立たせます。

 髪飾りはシンプルで上品なものが選ばれ、ティアラは控えめな装飾ですが、それが逆に権威を主張しています。


 本当に王太子や国王とは真逆ですね。

 王妃殿下の服装には重厚感があります。


 過剰に装飾することなく、洗練されたシンプルさが保たれています。

 冷酷でありながらも力強い、統治者としての自信と風格を示しています。


 この方も登場の機会を待ち受けていたのでしょう。

 もしかしたら、ヴェロニカ王女殿下と示し合わせていたのかもしれません。

 そういう方々だとは理解していましたが、ちょっとだけイラッとします。


「どうにもならんとは、どういう事だ?」


「ここでおかしな選択をすれば、王都の社交界で疫病が発生してしまい、ここにいる全ての貴族が亡くなられるという事ですわ。

 もちろん、その中には陛下も含まれますのよ。

 わたくし、一度も陛下の事を愛した事はありませんけれど、それでも共に暮らした情はございますの。

 一度だけ、そう一度だけ助言して差し上げますわ」


 国王がまた真っ青になり、酸欠の金魚のように口をパクパクさせています。

 ですが今回はそれだけではありません。

 誰の目にも明らかなほど、ガタガタと全身が震えています。


 ヴェロニカ王女殿下の本心には気がついていなかった国王も、アルギーネ正妃殿下の恐ろしさは知っていたのですね。


 まあ、長年夫婦だったのですから、何度も痛い目に会った事があるのでしょう。

 その全てが自業自得だったにしても。


「レティシア、トライガが申し込んだ決闘を認めます。

 それと、トライガと一緒にレティシアを侮辱したモノも、決闘を申し込んだと判断します」


 会場が一斉に騒がしくなりました。

 誰もが自分も巻き込まれるかもしれない、殺されるかもしれないと恐れ、会場が恐怖の坩堝と化したのです。


 私は、顔がニンマリとしてしまうのを抑えられませんでした。

 正妃殿下公認で、貴族共を皆殺しに出来るのですから。


 まあ、正妃殿下と王女殿下の思惑は分かっています。

 トライガを取り除くと決断した以上、トライガに取り入っていた貴族は、王女殿下の邪魔でしかありません。


 寝返りすり寄ってきたとしても、いつまた裏切るか分からない下劣漢です。

 自分達の手を汚さず、大義面分を得て殺せるのなら、この機会に殺しておくべきだと判断されたのでしょう。


 まあ、そんな事はどうでもいいです。

 長年の恨み辛み、晴らさせていただきましょう。

 万が一殺し損ねると無念ですから、最初はトライガからです。


 剣で耳と削ぎ、鼻も削ぎ、指先を縦に裂きます。

 指を跳ね飛ばすなんて、そんな優しい真似はしません。


 指は跳ね飛ばすのではなく、縦に裂いた方が痛いのですよ。

 長年どうやって殺せば苦しませる事ができるか、考え続けてきたのです。


「ギャアァアア、痛い、痛い、痛い、痛い!

 許してくれ、謝る、謝るから許してくれ、この通りだ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る