第5話:華麗なる欺瞞の王冠

 あら、あら、あら、あら。

 こんな場所に国王陛下がやってこられるとは、思いもしませんでした。

 誰かが王太子の危機を知らせたのでしょうか?


 それにしては早すぎますね。

 王太子が私を虐める所を見せたくて、国王陛下を呼んでいたのでしょうか?


 国王陛下は高価な絹で作られた豪華な深紅のローブをまとっています。

 細部にわたるまで、金箔で装飾された繊細な模様が際立っています。


 ローブの襟や袖口には宝石が散りばめられ、シャンデリアの光を反射してまばゆい輝きを放っています。


 陛下が首にかけているのは、見事な宝石で飾られた金のチェーンネックレスです。

 シャンデリアの光が当たり、一つ一つの宝石が輝きを増し、彼の虚栄心と富への欲望を物語っています。


 手首には金の腕輪が輝いています。

 腕輪には大小さまざまな宝石が散りばめられ、その輝きはまるで王自身の欲望を映し出しているかのようです。


 足元は贅沢な革靴です。

 歩く度に光り輝く金の飾りが甲の部分に施されています。

 尖った靴先が陛下の高慢さ、財力、権力を表しています。


 陛下が身に纏う服装は、虚栄心や貪欲さを外面化しています。

 豪華さや高級感に、人々を見下す自己中心的な考え方が透けて見えます。


 私には、陛下が身につける物全てが、周囲に対して優越感を抱かせるための道具に見えます。


 虚栄心が極端に強く、身勝手極まりない王太子に父親らしい服装ですね。


「余は何事かと聞いておるのだ、レティシア!

 王太子に剣を向けるなど、婚約者と言えど、許されることではないぞ!

 それに、その汚い姿は何事だ」


「恐れながら、申し上げます。

 何事かと御下問ならば、決闘だと申し上げさせていただきます。

 何故王太子殿下に剣を向けているのだとの御下問ならば、王太子殿下に決闘を申し込まれたからとお答えさせていただきます。

 この汚い格好の理由を御下問ならば、礼儀知らずの愚かな王太子殿下が、正式な決闘の申し込み方も理解できず、ワインの入ったグラスを私に投げつけて、このように負傷させ大恥をかかせる方法で決闘を申し込まれたからです。

 賢明な国王陛下におかれましては、この現状を見て、他に何か理由が思い浮かばれるのでしょうか?」


 国王陛下の顔色がおもしろいですね。

 真っ赤になったり、真っ青になったりしています。

 

 私の慇懃無礼で吐き捨てるような言葉に、怒りを感じると同時に、王家の体面に取り返しのつかない泥を塗った王太子を、どうやれば助ける事ができるのか、必死で考えているのでしょう。


 でも助ける時間など与えません、この場で直ぐに殺します!

 もうログレス公爵家もアーレンス王国も、どうでもいいです。

 王太子を斬り殺してこの場を逃げます。


 逃げきれなければ、斬り死にするだけの事です。

 廃人となって、ログレス公爵領で余生を送っている母の事が多少は気になりますが、これ以上罵られて生きる気にはなりません。


「そうか、それは全面的に王太子が悪い、誠心誠意詫びさせよう。

 だが王太子とレティシアは婚約者だ。

 まだ若い二人には分からないかもしれんが、夫婦の間で揉め事が起こるのは仕方がない事なのだ。

 夫婦喧嘩の度に命を賭けた決闘をしていては、この世に生きた夫婦がいなくなってしまう。

 ここは余に免じて王太子を許してやってくれ」


「それはできません、国王陛下。

 先程も申し上げましたが、王太子殿下は私にグラスを投げつけケガをさせました。

 それはログレス公爵家とヴェロニカ王女殿下の名誉を傷つけ愚弄し、恥をかかせた事になります!

 陛下が軽く頭を下げただけでは、名誉を回復した事になどできません。

 これを何事もなかった事にしたら、ログレス公爵家とヴェロニカ王女殿下は、社交界で永遠に馬鹿にされ続けるでしょう。

 ヴェロニカ王女殿下におかれては、まともな結婚もできなくなります。

 私には名誉を回復させる責任と義務がございます」


 ふ、ふ、ふ、ふ、国王が真っ青になって怒りに打ち震えています。

 国王の頭を下げた詫びが、何の役にも立たないと言われれば、腹も立つでしょう。

 でももう私の腹は決まっているのです、逃しはしませんよ!

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