第3話:血塗られた舞踏会・決闘への舞台転換

 愚かな王太子が、怒りに任せてワイングラスを私に投げつけてきました。

 天祐なのでしょうか、本当にこんな幸運があっていいのでしょうか?


 投げつけられたワイングラスが、中に入っていた赤ワインと共に飛んできます。

 血のように真っ赤な赤ワインです。


 このワイングラスを額で受けたらどうなるでしょうか?

 恐らく、額が割れて血が流れる事でしょう。


 王女殿下の姫騎士用に仕立てられた、超高級品の鎧ドレスが二度と使えないくらい台無しになるでしょう。


 ここまでの屈辱を受けたら、決闘の申し込みだと思っても構わないでしょうね?

 たかだか白手袋を足許に投げつけただけで、決闘の申し込みになるのです。


 ワイングラスを投げつけて、額を割って負傷させたのです。

 決闘の申し込み以外の何物でもないでしょう。


 全て王太子自身がやらかした事です。

 どれほど知恵の足らない愚者であろうと、自分のやらかした事の責任は、自分でとらなければなりません。


 ましてこれだけ高貴だと自慢しているのですから、高貴なる者の責任はとらなければなりません。


 ああ、ワイグラスがもう額に当たります。

 痛い、痛いですが、なんと甘美な痛みでしょう。


 今までの人生で、これほどの快感を得た事はありません。

 額から頭へ、額から顔へ、赤ワインが跳ね飛び私をずぶぬれにします。


「わっははははは、いい様だな!

 卑しいお前にはその姿がよく似合う。

 わっははははは、笑え、みなも一緒に笑え!」


「「「「「わっははははは!」」」」」


「うっふ、うふフフフ、うっはははははあ、はっははははは!

 いやぁぁ、愉快ですよ、王太子殿下。

 なにもここまでした頂かなくてもよかったのです。

 普通に白手袋を足許に投げつけてくださればよかったのです。

 それをここまで舞台を整えて決闘を申し込んでくださるとは!

 本当に愉快ですよ、ええ、ええ、申し込みは受けさせてもらいます。

 よろこんで受けさせていただきますとも。

 赤ワイン入りのワイングラスを投げつけて、ケガまでさせてくださったんです。

 満座の席で、これほどの恥をかかせてくださったのです。

 命を賭けた決闘、受けさせていただきます、泣こうが喚こうが許しません!

 これほどの恥を、ログレス公爵家令嬢であり、ヴェロニカ王女殿下の姫騎士である私にかかせたのです。

 ログレス公爵家とヴェロニカ王女殿下の両方を愚弄し、恥をかかせたのです!

 我が命に代えてトライガ王太子殿下の命を頂き、ログレス公爵家とヴェロニカ王女殿下の名誉を護ります!」


 ああ、ああ、満座の席が水を打ったような静けさです。


 それもそうでしょうね、私を嘲笑って楽しむだけのはずだった舞踏会が、王太子の処刑場に早変わりしたのですから。


 さあ、伝説に残るほどの醜態を晒して頂きますよ、トライガ王太子殿下!

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