第12話
数日後、ロドさんやハイルさんが言っていたように、ロドさんは呪いに長けていたと言う元王妃の呪いを打ち破った功績で継承権が与えられた。
元王妃はそれほどに力が強かったらしく、他にロドさんと争う者は誰も居ないらしく、このままロドさんが王となるのが確定した。
王妃に元がついているのは、どうやら牢に入れられているとか処刑されたとか……はっきり聞かせてもらえてはいない。ロドさんが、ミオは知る必要がないと言っているからだ。
元王妃の子ども達も、どうなったのか分からないが、もう遠くにいるから。と言われただけだ。
継承権を与えられた次期王と言う事で、お披露目のような物が行われているのを、端の方から見ていた。
こう見ていると、ロドさんと自分は生きてきた世界も立場も全然違うんだな、なんて思ってしまい、目の前の世界が舞台の上で行われている演劇のように現実味がなくなる。
「ミオ!」
「きゃあ!?」
そんな私に気がついただろうロドさんが駆け寄ってきて、私を抱きかかえ、髪に額に頬に口づけを嵐のように降らした。
周囲にざわめきの声が広がるも、ロドさんは一切それを気にしないけれど、私はとても気になる。
「次期王、ロド様!次期王妃、ミオ様!」
そんな中、大きな高い声で叫ばれた言葉に、一瞬周囲が静かになったかと思うと、皆も同じように叫びだした。
ロドさんの腕の中で慌てふためいて、思わずロドさんを見上げると、ロドさんは遠くを見ながら、あれは……と呟いていた。
私も同じ方向に目を向けると、三人の女性が目に入り、側に寄ってきたハイルさんが耳打ちしてくれた内容によると、遠い地で療養されている義妹達とその母だそうだ。
元王妃の事もあったが、こうしてロドさんを思ってくれる家族が居る事に心が温かくなっていると。
「ミオ、子どもいっぱい産んでね」
と楽しそうに、でもどこか意地悪そうに言うロドさんの声が聞こえた。
◇
なくしてから気が付くとは、よく言ったもので。なくしてから気がついては遅いのだと理解した時には、もうどうしようもないのだ。
「美緒ー!!!」
伝統ある舞の舞台で、私の一人娘は光の中に消えた。
目の前でありえない事が起き、今私は起きているのかさえ疑った。いっそ全てが夢であったら良かったのにと。
だけどその場は奮い立つ事が出来た。舞があったから。
美緒が居ないのであれば自分が舞うしかない。たったそれだけで、慌て混乱する周囲を黙らせるかのように舞った。
夢であれ
現実であれば返してくれ
そう願いながら。歪みを正せば、また現れると信じながら。
しかし、舞が終わっても、寝て目が覚めても、美緒は居ない。
周囲の話や警察の話からも、娘が神隠しのように消えたのは、紛れもない現実として深く深くのしかかってきた。
一人娘だから
大事な娘だから
跡取り娘だから
厳しく、厳しく育てた大事な娘。
喪失感から、ただただボーっとして生きる日々の中、ある日いきなり紙のような小さな鳥が飛んできた。
——この世のものではない——
すぐにそう理解したが、何かをする気力もなかった。
ただその鳥のようなものを眺め、自分の膝に止まるのをボーッと見ていたら、その鳥は発光し、脳内に映像と声をダイレクトに伝えてきた。
そこに現れた美しい少年は言う。
舞が長い年月の元で変化し、不完全である事。
美緒と自分には楔が打たれている事。
美緒は別の世界で生きている事。
美緒と結婚する事。
「返せ!返せ!!返せ!!!」
脳内での映像であり、目の前にいるわけでもないのに、私は叫んだ。
まだ十六歳なのだ。まだ子どもなのだ。
親の許可もなく結婚とは、どういう事だ。
別の世界であり、こちらの常識は通用しないだろう事よりも、相手の粗を探している考えに浸ってしまう。
ただただ、返せと。お前に過失があると。絶対に認めないと。
叫んでいる中、映像は変わる。
そこには笑っている美緒、照れている美緒、怒っている美緒。
様々な表情を見せる美緒が居て、衝撃を受けた。
私は……美緒の表情を見た事があっただろうか?
いつも無表情に俯く美緒しか見ていなかったのではないかと、今更ながらに気がついた。
どうして?どうして??どうして???
自問自答しても答えなんて出ず、ただただ映像が変わっていく。
楽しそうな美緒、嬉しそうな美緒、幸せそうに満面の笑みを向ける美緒——
「あ……あぁああああ!!!!!!」
幸せにしますと、最後にまた男の声が聞こえたが、それよりも自分が手元にあった時から失っていた物を自覚し、泣き崩れた。
【完結】ストーカーに召喚されて溺愛されてます!? かずき りり @kuruhari
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