第11話

「ロドさん!説明してください!」

「おはよう、ミオ」


 朝スッキリ目覚めると、昨夜の事を思い出し、ロドさんの元へ問いただしに行かなくては!と思って起き上がろうとすると、何かに手が当たった。

 ふと隣を見ると、ロドさんが同じベッドで横になっていて、何故かにこやかに私を見ていた。

 何で!?いつから!?

 焦りとパニックで私が放った言葉に対し、ロドさんはクスクスと笑いだした。


「説明って、どっちの?」


 どっちもです!

 心の中で叫べば、更にロドさんは笑い、ハイルさんを呼んだ。


「着替えてからね。朝食の時に説明するよ」

「あ……」


 自分が着ている服が意識を失う前と違う事に驚き、ベッドから下りたタイミングのロドさんを見ると、そのはだけた胸元に薄くなったとはいえ、そこに存在していた筈の痣が見当たらない。


「え……」


 聞きたい事が沢山あるのに、沢山ありすぎて、もう何をどう聞いて良いのかさえ分からなくなった私は、さっきから一音しか発音できていない。

 頭の中が混乱して、もうマトモに考える事が出来なくなった私は、着替えから何から全てお世話になってしまうというパターンになってしまっていた。





 空の回路を通り、温室のような建物に行く。中に入ると花の香りが微かに漂い、花びらが空中に漂っている、何とも不思議な癒される空間だった。

 暗い気分を一掃出来るようにと、朝食の席を少し離れたこの場所を提案したのはロドさんだ。ガゼボのような開けた場所でもないので、人払いにもちょうど良いという理由もあったが、何よりも閉められた空間という事だからこそ、香りも花びら舞う風景も見る事が出来るのだろう。

 待っていたロドさんに席を勧められて座ると、すでにテーブルの上には食事が並べられており、ハイルさん以外の人は居なくなっていた。


「痣の呪いはミオの世界から戻ってきた後にかけられたんだ。確実に殺すつもりだったみたいでさ」


 食べながら話そうか、とロドさんは言い、唐突にそんな言葉を吐き出した。


「でも、ミオを迎えに行くって決めてたから、死にたくなくてね~!呪いを別のものに変えちゃったんだ」


 何でもない事のように、あっけらかんと話すロドさんに、私の脳内は疑問符が漂った。

 そんな簡単に出来るものなの?なんて思いながらハイルさんに少し視線を向けると、ハイルさんも意図に気がついたのか、首を左右に振っていた。

 この世界の事なんてまだまだ分からない事ばかりだけど、さすがに目の前に居るロドさんが凄い人だという事は何となくだけど理解できた。

 不可能を可能にした人に近い、と。


「確かに不可能だけど、ミオの世界で言う火事場の馬鹿力みたいなものかな?出来ちゃったんだよね」

「でも……何年も苦しんでいたのでは?」


 どんな呪いに変えたのかは分からないけれど、苦しんでいたのは事実だろう。だって、あんなに苦しそうにしていたのだ。


「変えたのは死期を伸ばした事と、呪いを解く方法をつけ加えただけだからね。呪った奴は気がつきにくかったみたいだし、むしろ何故こんなに生きながらえているんだって思ってただろうね」


 笑ってロドさんは答えているが、笑える問題でもない気がする。

 終わった事だし、もうどうでも良いよ、なんて言うけれど、いくら過去の事とは言え、聞いている私は色々と心配で慌ててしまう。それでどうなったの?なんて小説の話を友人から聞いているようには答えられないのだ。


 ロドさんの説明を更に聞いていると、自分の息子である第三王子を王にしたい王妃によるもので、昨夜来襲してきたのも王妃とその娘である第一王女だったと言う。

 呪いでなかなか死なないロドさんが召喚した私がキーポイントになると踏んで、嫌われるようにして、ロドさんが精神的に弱ったところを狙って呪いを増幅させるつもりだったそうだが、それも失敗したという事だ。心当たりがありすぎる私は俯き、ロドさんの顔をまともに見る事が出来ないが、もうロドさんを狙うだろう人は居ないと聞いて安心した。


「王妃様が失敗したから呪いが解けた?」

「いや、そんな方法にはしてないよ?ミオとの楔かな」


 私との楔?

 首を傾げているとロドさんは真剣な表情をして言った言葉に驚愕した。


「ミオしか要らなかった。手に入らないなら死んでも良いと思ってたからね、呪いを代用したんだ」

「え」

「きちんと伝えないと伝わりませんよ」


 つまりどういう事だろうと思ったら、ハイルさんがフォローを入れてくれた。


「純粋にミオと愛し愛されることが呪いを解く条件だったんだよね」

「!?」


 呪いを解く程、愛されてるって分かるでしょ?僕もだけど。

 なんてサラっと付け足しされたけれど、嬉しい気持ちもあるが、恥ずかしい気持ちの方が勝って、どうしようも出来ず俯く。

 それだけロドさんに愛されているのだと言う証明であり、自分の存在を認めてもらえるようで嬉しいし、一緒に居ても良いという証拠にもなるが、それは逆も然りという事で……。

 いまいち自覚しきれていなかった自分の感情を一気に自覚した。

 これが、人を好きだという感情だと思ってしまえば、もうロドさんに対してどういう対応をして良いのか分からなくなる。


 慌てふためく私を、ロドさんは微笑みながら眺めている。

 心も分かる、見ていても分かる。絶対離さないという、その気持ちだけで眺めているロドを、ハイルは小さく溜息をつきながら見ていた。


「多分、僕は王になるから。ミオは今まで通り自分のペースで好きに暮らしていて良いからね」

「えっ」

「呪いを打ち破ったのです。ミオ様の協力があったとしても十分な功績ですからね。ミオ様の功績としても積み重ねられるでしょう」

「継承権が与えられたら結婚しようね」


 無邪気に話すロドさんに対し、心の準備も一切出来ていなかった私は、またも現実逃避を繰り返す事となる。

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