第0話 side.涼風まひろ

事務所での打ち合わせの帰宅途中、駅を歩いていると、どうしても目が離せない少女がいた。どこかに向かっているようだったが、何にも関心がなく、そのままどこかへ消えてしまいそうな雰囲気をまとっている。そしてなにより、そんな雰囲気を少女がまとっていることが気になって、気がつけば声をかけていた。


涼風まひろ「ねえねえ君迷子?・・・あ・・・」


どうやらお手洗いに向かっていたようだ。


涼風まひろ「気のせいだったのかな?でも・・・」


先ほどの彼女が気になって仕方がなかったので、様子を見ることにした。お手洗いから出てホームへ行き、ホームで立っている彼女を見ていると、異様な胸騒ぎを覚えた。電車が近づく音がする。次の瞬間、彼女は線路に身を投げようとしていた。


涼風まひろ「ちょっと!?」


気がつけば、体が動き、彼女の腕を引っ張っていた。


涼風まひろ「ちょっと君!!!何してるの!!!!死にたいの??」


柊太郎「え!?あの!?」


涼風まひろ「ただならぬ雰囲気の女の子がいると思って話しかけたけど、反応が無かったら気になって付いて来てみれば!あなた何をしようとしてたの!どこから来たの?ご両親は?」


柊太郎「すみません。すみません。私を触らしてしまってすみません。すみません。」


(私が触ったことをあやまってる??)


涼風まひろ「え!?なにどういうこと?そんなことより質問に答えて?」


柊太郎「すみません。名前は柊太郎といいます。両親はここにはいません。」


涼風まひろ「太郎って男の子だったの!?なんか君は放っておけないから、ウチに来なさい。」


(こんな娘を放って親はどこにいるの??この娘は今目を離したら絶対ダメな気がする・・・何とか引き留めないと!)


柊太郎「え!?だめです!」


涼風まひろ「問答無用!強制です。連行します。」


柊太郎「いやです!!!!!」


(何この反応!?可愛すぎる・・・じゃなくて!力も私の方が強いし・・・か弱くて可憐な女の子・・・じゃなくて男の子・・・ってそういうことじゃなくて!!これは詳しい話を聞きたいから連れていくのであって、決してこの子がかわいいからとかが理由じゃないからね!!!)


家に着くなり居間に座らせてしばらく待つと、どうやら落ち着きを取り戻したみたいなので、話しを聞くことにした。性別は男性で歳は20。さらに話を聞くと潔癖症っぽいこともわかった。


反応や雰囲気から家庭環境にも問題がある可能性があり、衣食住がきちんとできているか心配になったので、とりあえずご飯を食べさせてあげることにした。


(何を食べさせてあげようかな。そうだ!)


子どもの頃に母親に食べさせてもらってから大好きなオムライスを作ることした。遠慮する素振りも見せたが、少年?がかわいくて仕方がないし、心配していたので、半ば強引に進める。


涼風まひろ「だーめ!食べなさい!これは命令です!食べるまで帰してあげません!」


オムライスを作り終え少年の前に運ぶと、少年はオムライスを見つめ、一口頬張る。おいしいと口にした少年の声は震え、涙を浮かべている。その姿を見て、家庭環境に問題があり、愛情を受けずに育ってきたことが伺える。少なくとも、普通の家庭で生活ができていなかったことは明白だった。


肌が白く、少女のような体型。そして家庭環境。考えれば考えるほど、怒りがこみあげてくる。気がつけば少年を抱きしめていた。


涼風まひろ「いまは何も言わなくても、なにもしなくてもいいから、気が済むまでここにいなさい。」


柊太郎「え?でも申し訳ないです。なにもできないのに、おいてもらう価値がないのに。」


何もしなくてもいていいんだよ。本当はそう言いたいが、愛情を受けずに生活してきた子は、いきなり無償の愛的なものを与えようとすると、かえって負担になり、逃げられてしまう気がした。


まずは少年がここにいてもいい理由を見出してあげよう。そう思い、家事をしてくれる見返りとして、生活してもいいという態で、ここに住んでもらうことにした。


意外にもあっさりと頷いてくれたので、一安心する。しかし納得は行っていないのか、他に何かできることは無いか聞いてきたので考えてみる。


(うーん・・・家事でも無理やり出した理由だったのに、それ以外となると・・・かわいいからここに住んで!・・・って言うのもアレだし・・・うん?かわいい?・・・あ!そうだ!声もかわいいし、Vtuberになったら人気がでそうじゃない!私も同業だから手伝えるし!)


涼風まひろ「あなた真面目?なのね。あ、そうだ!じゃあ私と同じ仕事してみる?家にいながら一人でもできる仕事よ。容姿も声もすごくかわいいし、絶対適任だわ」


柊太郎「その仕事させてください!」


涼風まひろ「わかったわ。準備には数日かかるから待っていてね。今日からよろしくお願いね。太郎君。」


(そうと決まれば、準備を進めよう!!機材もそろえて・・・やることがいっぱいね!・・・そういえばこの子リアルは男性だけど、どう見ても女の子だからアバターは女の子にしよう!!太郎君かわいい化プロジェクト始動よ!!!)


彼と握手を交わしながら、彼の知らないところでとんでもない計画がスタートしていた。まひろは彼との未来のことを考えながら、高揚感に満ち溢れていた。





これは、偶然の出会いを果たした二人が、Vtuberとして大勢の人を愛し、愛されるようになる物語である。

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