家族に捨てられた潔癖男の娘(成人済)、拾ってくれた女性に恩返しするため、Vtuberとして本気を出す

しあこむ

プロローグ 恩人との出会い

第0話 side.柊太郎

死のう。


主人公である柊太郎ひいらぎたろうはそう思った。


(お前はもう20歳になったのだから、これからは私たちの見えないところで生きていけ。そこはもう必要がないから明日には住めなくなるぞ。最後の仕送りは入金しておくから、それでどうにかしろ。)


シャワーの後に、スマートフォンを見たとき、このメッセージが届いているのを確認して、部屋から退去する準備を進めた。


(ここは嫌いだから、せめて私を知らないところに行きたいな)


部屋を出て電車に乗り、5時間がたった。


(地元とは風景も雰囲気も違うところに来たし、もうここで死んじゃお。)


死ぬ時ぐらいは可能な限り清い体でいたいし、事後処理する人のことも考えて、トイレに向かった。

トイレに向かう途中、誰かに話しかけられた気がするが、もうどうでもよくなっていた僕は用を済ませ、ホームで電車が来るのを待っていた。

電車の音が近づくにつれ、自分の体が自分のものでなくなるような気がして、初めて気が楽になる。


(はぁ。やっぱり死ねばこの呪縛から解き放たれるんだな。)


そう思いながら、線路に身を投げようとした瞬間、急に何かに引っ張られ、現実に戻された。


?「ちょっと君!!!何してるの!!!!死にたいの??」


柊太郎「え!?あの!?」


?「ただならぬ雰囲気の女の子がいると思って話しかけたけど、反応が無かったら気になって付いて来てみれば何をしようとしてたの!君どこから来たの?ご両親は?」


柊太郎「すみません。すみません。私を触らしてしまってすみません。すみません。」


?「え!?なにどういうこと?そんなことより質問に答えて?」


柊太郎「すみません。名前は柊太郎といいます。両親はここにはいません。」


?「太郎って男の子だったの!?なんか君は放っておけないから、ウチに来なさい。」


柊太郎「え!?だめです!」


?「問答無用!強制です。連行します。」


柊太郎「いやです!!!!!」


抵抗しようとしても、力比べで負け、マンションの一室に連れ込まれてしまった。


?「少しは落ち着いたかしら?」


柊太郎「はい・・・落ち着きました・・・」


涼風まひろ「まずは自己紹介し合いましょ。私は涼風まひろ。22歳よ。」


柊太郎「僕は柊太郎といいます。20歳です。」


涼風まひろ「その容姿で20歳なのね・・・太郎って言う名前、あなたは男性なの?」


柊太郎「はい・・・生物学的に男です。」


涼風まひろ「そう・・・男性なのね。20歳男性でその細い体は異常だわ。肌も色白だし。わかった!何か食べ物作ってあげる!何が食べたい?」


柊太郎「!?ダメです!食べられません!食器とか机とか汚してしまいますから。それとさっき僕を触りましたよね!手を洗ってください!私も早くここを出ていきますから!」


涼風まひろ「どういうことなの?潔癖症なの?なんかその感じだと、家庭環境とも関係してそうだよね?」


柊太郎「・・・」


涼風まひろ「まあそのうち話してくれればいいわ。汚すとか気にしないから、ごはんを食べていきなさい!オムライスつくってあげる」


柊太郎「でも・・・」


涼風まひろ「だーめ!食べなさい!これは命令です!食べるまで帰してあげません!」


柊太郎「わかりました。」


力比べで負けることはわかっているので、食べるまではここから出られないと悟り、観念することにした。


涼風まひろ「ふん、ふ、ふーん♪」


キッチンで料理をする涼風まひろを眺めながら、ただただ待つことしかできなかった。自分の位置関係的に今なら逃げられそうであったが、なぜか行動に移すことができなかった。きっとオムライスのおいしそうな香りにつられたのだろうと、行動に移さなかった自分に納得させた。


涼風まひろ「さあできたわよ!たんと召し上がれ!」


目の前に出されたオムライスを見つめる。何を思うわけでもなく、自然にスプーンを手に取り、口に運んだ。


その味はなぜだか懐かしく、暖かく、その瞬間だけはすべてを忘れることができた。


柊太郎「おいしい・・・」


気が付くと、自分の声が震えている。目の前がぼやけて見える。涙が止まらない。こんな暖かい気持ちになったのはいつぶりだろうか。気がつけば、抱きしめられていた。


涼風まひろ「いまは何も言わなくても、なにもしなくてもいいから、気が済むまでここにいなさい。」


柊太郎「え?でも申し訳ないです。なにもできないのに、おいてもらう価値がないのに。」


もう自分の意志では出ていくと言えなくなっていた。心のどこかで、今も感じているこの暖かな気持ちを捨てることは、もうできなくなっていた。あぁ、なんて卑しいんだろう。ずうずうしくも何もできない価値のない自分を置いてもらいたいと思ってしまうなんて。


涼風まひろ「じゃあ家事全般をしてもらう交換条件に、ここに住んでも良いということにしましょ。私の仕事柄、生活リズムが人と違うこともあるから、毎日家事をこなすのが限界になってて、家事してくれる人をちょうど探していたのよね。 あなたがいてくれたら助かるわ」


いてくれたら助かる。言われたことのなかった言葉に僕は衝撃を受けた。住まわせてくれるだけでもありがたいのに。自分の価値まで見出してくれた。


柊太郎「ありがとうございます。牛馬のように働きますのでこちらに住まわせてください。ですが、家事だけでは、条件として釣り合いませんので、何かほかに出来ることはありませんか?」


涼風まひろ「あなた真面目?なのね。あ、そうだ!じゃあ私と同じ仕事してみる?家にいながら一人でもできる仕事よ。容姿も声もすごくかわいいし、絶対適任だわ」


柊太郎「その仕事させてください!」


いつもは何かをしないといけないと思いながら、生きてきて、この時生まれて初めて、能動的に何かをしたいと強く思った。仕事の種類なんてなんでもいい。


涼風まひろ「わかったわ。準備には数日かかるから待っていてね。今日からよろしくお願いね。太郎君。」


柊太郎「わかりました。こちらこそ今日からよろしくお願いします!まひろさん!」


握手を交わす。太郎自信は気が付いていなかったが、普段は他人との接触を行うと、強烈な吐きけに襲われていたが、この日は、抱きしめられても、握手を交わしても、暖かい気持ちでいっぱいだった。いや、気が付いていたのかもしれない。気が付いたうえで、この暖かい気持ちに縋ったのかもしれない。


もう少し生きていたいと思わせてくれた、彼女に何かを返したい。ここでなら、何かを変えられるかもしれない。


まひろさんが作ってくれるオムライスが、世界で一番好きだ。

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