探偵少女、とある記者と会うことになる
「……ひっぐ…………ぇぐ……」
涙を流しながら肩を震わせる佐倉井の泣き声が、建物内に響く。ウェイターが数名心配そうに見つめている中、響は落ち着いた表情で「話してくれて、ありがとう」と抱擁した。右手で背中を撫でていると、少しずつ動揺が収まっていく。
「取り乱してしまって、ごめんなさい……」
「しょうがないよ。僕だってそんな状況にあったら、取り乱してしまうと思う。それに――君が無事だったからこうやって情報を得られたからね。感謝しているよ」
一倉は口角を上げながら目を細めた。言葉を言い切ると同時に、グラスに入った氷水を口に運んでいた。
「そうね! あなたのおかげで私たちの事件解決に一歩近づいたわよ! 話してくれてありがとうね!!」
鈴佐は嬉しそうな表情をうかべながら佐倉井の左手を両手で握り、小さく握手した。勢い良く対応する鈴佐を響が身体を前に出しながら視認していると、前方に座っている桜江と藤堂が口を開いた。
「けど……この情報がわかったら事件解決するのかな?」
「なんでそう思ったんすか? 一歩進んだじゃないっすか!」
「事件がどのように起きたかは分かったけれど、結局相手がどこにいるかはわからないじゃない。もしかしたら、かなり遠い地域に潜伏している可能性もあるし……」
「いや、それはないんじゃないかな」
懐疑的な内容を口にする桜江に対し、響が口をはさんだ。
「生徒を誘拐した後、車で移動するときは様々な問題が発生するはずなんだよ。渋滞が発生するかもしれないし、もしかしたら故障するかもしれない。そうなったら犯人はトランクから生きている少女を出さなきゃいけないんだ。もし彼女が大声を出してしまえば、様々な通行人に見られる可能性があると思うんだよね」
「なるほど……つまり、犯人にあまりメリットがないということですかね」
「推測の域は出ないけれど、そうだと思う。何より、前に私たちが巻き込まれた事件から考えると、相手は東京の都心部を根城にしているんじゃないかな」
「あぁ……バーで発生した銃撃事件ね」
平静を保ちながら当然の如くそれを口にする鈴佐に各メンバーの注目が集まった。響はざわざわしている周りを眺めながらウェイターを見る。こちらの方を見ているが、電話する素振りはないようだ。響が胸を撫で下ろしていると、前に座っている藤堂と一倉が自身に前のめりで話しかける。
「ちょちょっと! 気になるんすけど!!」
「そんなことあったんですか!? 怪我のほうは大丈夫ですか!?」
響はぬかったと言いたげな表情になりながら目を瞑る。自身の脳内でどうすればよいかブレストした後、行動した。
「……二人とも、うるさい……!」
響は低い声を出しながら般若の面のような表情を浮かべた。直後、二人の低く小さい悲鳴が聞こえてきた。
「ご、ごめんなさい……!」
「わきまえるっす……!」
叱られた男二人がしょぼんと眉を下げていると、鈴佐が腕を組みつつ口を開く。
「響。あんた的に、今回の事件ってアポトーシスはどう思う?」
「……正直言って、相当怪しいと思うよ。クロだと思う」
「そっか……それなら、ちょっと問い合わせてみるよ」
鈴佐は返事を返すと同時に携帯を取り出し電話をかけ始める。スピーカーホン状態になっている携帯から流れる事件解決系のドラマ音楽が流れていると、相手が出たようだ。
「久しぶり。うん、三か月ぶり。うん、そぉそぉ、ミステリー系の部長やってる。でさ。お願いあるんだけど、今度みんなでそっちのマンション行っていい? そう、ありがとう。もし変なことをしたら、殺すからね。じゃあ、また」
物騒な発言をしながら電話を切ると、鈴佐はにかっと笑みを浮かべた。
「みんな! 事件解決に近づける力のあるやつと連絡取れたわよ!」
「えぇ!? そんな人がいるんすかっ!? すげぇっす!」
「す、すごい……てっきりミステリーオタクの馬鹿だと思っていましたよ」
「一倉、死にたいならそう言いなさい」
鈴佐が笑顔を浮かべる一倉を睨みつけた途端、がんとテーブルの下で音が鳴った。直後、一倉が「いってぇぇっ!」と叫びながら下にしゃがむ。膝を蹴られたんだろうと響は思った。
そんな状況の中、鈴佐は一呼吸おいて質問する。
「とりあえず聞きたいんだけれど、明日の放課後あいているかしら?」
質問に対し問題ないと答えたのは、一倉、響、桜江だ。一方で藤堂は苦虫を嚙み潰した顔で「すまねぇっす……明日は用事があるっす……!」と頭を下げた。鈴佐はため息をつきながら藤堂から視線を逸らすと、周りの人物たちを眺める。
「用事が入っている藤堂は仕方ないとして……他の皆は来れるよね?」
鈴佐は笑顔一つない表情で顔を回す。硬そうな表情で首を縦に振る仲間たちを見た彼女はにぱっと笑顔をうかべた。
「よかったね、佐倉井さん! 皆明日来るってよ!」
「え、えぇと、あの……私、明日用事があるんですけど……」
「えええっ? なんだってぇ?」
鈴佐は隣で弱弱しく手を上げる佐倉井の返事に目を丸くした。響のような目力で震える少女を見つめつつ、鈴佐は質問する。
「それって、親友の命よりも大事なの?」
低い声で口に出した質問は、芯を得ている。ここで一緒に向かうと口にしなければ、申し訳ない気持ちになるという人間心理を巧みに使用していた。
「え、えぇっ……?」
「親友の命よりも、大切な物なの?」
「……す、すみません……用事は、取り消します……」
泣きそうな声で返事を返す佐倉井の返事を聞いた鈴佐は、にかっと笑みを浮かべる。周りの人物がどうあろうと、事件に解決する手段があるならば利用する。それが彼女なのである。
「さてと、響。頭数は揃えたよ」
「……申し訳ない感じだけれど、来てくれるのはありがたいね。因みにだけれどだれと会う予定なの?」
当然とも思える質問を響が行うと、鈴佐は「ふっふっふっ……」と声を出す。笑い声を出し終えた彼女は落ち着きを取り戻した後、響に返答を返した。
「明日会うのは、私が懇意にしている記者。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます