探偵少女はお茶会に行く ③(箸休め回)
午後一時四十五分、普段通りワイシャツとジーンズを身に着けた響は山手線で席に座っていた。車内映像は天気予報が流れており東京都内は晴れと表示されている。窓を振り返り確認すると青空に満たされた風景が映った。
「いい天気だなぁ」
軽く呟きながら次の駅を確認する。薄緑色の文字で池袋と表示されていた。目的地に着いた響は荷物類を確認してから駅に出る。階段を登りメトロポリタン口の方から改札を出ると談笑する鈴佐と桜江の姿が目にうつった。
鈴佐は青のキャップに白のタンクトップ、黒のジャケットを身に着けている。下は黒のロングパンツとスニーカーで合わせており、肩には黒のショルダーバッグをかけていた。黒で統一された服を着ているためかっちりした印象を与える。
桜江はオーバーサイズのニットベストの下にデニムパンツと白と黒を基調としたスニーカーを履いている。腕には茶色の革で出来た腕時計を巻いており肩には白色のトートバッグをかけていた。ほんわかした服装でありながら動きやすさもある。お出かけするなら最適と言える服装をしていた。
二人の服を見た響が動揺しながら二人の下へ近づくと、気が付いた鈴佐と桜江が声をかける。
「こんにちは、響。体調は良い感じかしら?」
「海瀬さん。今日は来てくれてありがとう」
二人は響の服装に言及せず普段通り挨拶する。
二人を見た響はほっとしながら笑みを浮かべ挨拶を返した。
「三人揃った事だし、行きますか」
「そうだね、行こう!!」
響は元気よく拳を突き上げてから目的の場所へ向かう。東武東上線と看板で書かれた矢印の方へ向かうと格子の先に電車達が見えた。デパートの看板を軽く見ながら階段を降りると広々とした場所に出た。
床に構築された規則正しい正方形のアートを眺めてから二人の女性が基にされた褪せた青銅色の像に視線を向けた。数秒像に視線を向けてから駅の外に出ると、視界に入るのは数十階もありそうな巨大なビル群だ。
響は目を輝かせながら普段あまり見ないビル群に熱い視線を向けていた。右往左往に目を動かしていると鈴佐が声をかける。
「もしかして、池袋に来たことはあんまりない感じ?」
その言葉を聞いた響は恥ずかしそうに顔を赤らめながら返事を返す。
「うん、多分初池袋」
「それなら色々な場所気になるよねぇ。夜は皆で色々な場所回ろうか」
予想だにしなかった鈴佐の返答を聞いた響は驚きつつも申し訳ない表情になった。今週出された学校の課題がまだかたづいていなかったからだ。
「いいけど……私課題があって」
響が下を向きながら悲しそうに言うと、鈴佐と桜江は笑みを浮かべた。
「大丈夫大丈夫。課題があるなら私も協力するしね」
「そうよそうよ。今日は、みんなで堪能しましょう!」
「……本当にありがとう。二人とも」
響は二人に感謝しながら深く頭を下げてから街を歩き始めた。街の様々な所を見ながら他愛も無い会話をする。そんな時間を過ごすだけで、響は自然と緊張がほぐれていった。
「そういえば、今日行くカフェってどういう場所なの?」
響が質問すると、鈴佐は直ぐに返事を返した。
「私の知り合いが愛用しているカフェよ。落ち着いた雰囲気が特徴的だから響もすぐに気に入ると思うわ」
「そうなんだ。それは楽しみだなぁ」
響はこれから向かうカフェに心を踊らせながら目的地へ向かった。響は目的地に着くための道を念入りに暗記しながらゆっくりと歩を進めていく。
そうして、最終的に着いた時刻は午後二時五分だった。
「着いたわ。ここが私の勧めるカフェよ」
鈴佐の言葉を聞いた直後、響と桜江は顔を見合わせながら表情を曇らせた。数十年前に建てられた雰囲気のある建物であり、コーヒーの看板があることからカフェの様に見えるかもしれない。
しかし、問題はそこではない。カフェの名前だ。
「鈴佐ちゃん、ここのカフェの名前って……」
「シンクバーよ。それがどうしたの?」
「それってバーじゃないの? 未成年が入って大丈夫??」
はっとした顔で看板を見返した鈴佐は声を出して笑った。
「ごめんごめん! 忘れてた忘れてた、ここはバーだよ。けど大丈夫。ここの店主さんと私仲良いから大丈夫だよ」
「いやそう言う問題じゃ……」
「いいからいいから! 大人になった気持ちで入ってみよ!」
鈴佐はそう言いながらカランコロンと鈴音を鳴らし店の中に入る。鈴佐の行動を見た二人が数秒間呆気にとられた。
「……取り合えず、行ってみましょうか」
「そうだね。うん……そうしよう」
響と桜江は共に店の中に入っていった。入口に設置されたベルの音が鳴ると同時に店の内装が明らかになる。座席は木の椅子とテーブルで構成されており、壁にはモノクロの楽器演奏していると思われる写真類が飾られていた。カウンターには丸椅子が設置されており、奥には男性が一人いた。
白髪に少々黒髪が混ざったオールバックの厳つい男だ。黒ベストを着た男は丸椅子でゆらゆらと揺れている鈴佐と楽しげに談笑している。
響達が二人に近づくと、男が声をかけた。
「いらっしゃい、二人は鈴佐ちゃんのお知り合い?」
「私の頼もしい仲間れ! 頼もしいれしょ!」
響は鈴佐の顔を見た瞬間に驚いた。顔が赤くなっていたからだ。まさかと思いながら響が睨み付けると店主は困った顔になりながら返事を返す。
「大丈夫、別に酒は飲ませていないさ。単純な場酔いだよ」
驚いた響は鈴佐の近くにあった飲み物に手を伸ばし確認した。炭酸は入っておらず、酒特有の強い匂いもしない。至って普通のオレンジジュースだ。
「はぁ……びっくりしたぁ。宮前さんがバーに来るって言ってたからてっきり未成年飲酒でもかまそうとしているのかと思ったよ……」
「はは。まぁ無理もねぇだろう。バーは未成年お断りだしな」
男は両腕を組みながら深々と頷いていた。店内で流れている落ち着いた雰囲気の音楽のみ聞こえる時間があった後、店主が真剣な顔つきでこういった。
「取り合えず、座りなよ。飲み物はサービスするからさ」
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