探偵少女はお茶会に行く ②(箸休め回)

「ダメだ、悪目立ちする未来が見える。服ダサいって思われる……」


 響は枕を抱きながらベッド上で泣き言を口にした。ファッション流行地である池袋にダサい服で行くのは自殺行為と考えたからだ。

 

 しかし、弱音を吐いても慰めてくれる人は部屋の中にいない。


「仕方ない……妄想するか……」


 深呼吸した響は仰向けになりながら目を瞑る。

 一定規則で呼吸を行いつつ、脳内で妄想を張り巡らせる。


 次の瞬間、白色のワイシャツとジーンズを身に着けた響の前にこじんまりとした議場が現れる。傍聴席も無く、弁護人もいない。前回妄想した空間よりも少々狭い空間が広がっていた。


 ワイシャツを着ている響の前には、二人の少女がいた。

 首に金色の十字架をかけている黒色のシスター服を着た響。

 ゴスロリファッションの響。


 二人とも普段の響とは似ても似つかない格好をしていた。


 想像した二人が持つやけに尖った設定に響は困惑した。

 しかし、ツッコミを入れる時間は響に残されていなかった。

 数時間後に池袋で合流しなければならないからだ。


「お願い、二人ともお礼は出来ないけど力を貸して」


 白ワイシャツを着た響は両手を合わせて二人にお願いした。

 言葉を聞いた響達が互いに反応する。


「主様に、神のご加護があらんことを……」

「あはっ、主様ださすぎぃ。馬鹿にされますよぉ?」


 響は強い言葉を使うゴスロリの響を睨みながら詰め寄った。


「馬鹿にされる要素は何? 探偵は動きやすい服装よ」

「いやいや、何言ってるんですか。今回は友達付き合いですよ。TPOごとで服を分ける概念知らないんですか?」


 ゴスロリファッションの響はワイシャツを着た響に問いかける。

 ワイシャツを着た響は返答が思いつかず、逆切れした。

 

「う、うるさい! 私がいなければアンタは存在しないくせに!」

「うるさくないですよ。そもそも、ファッションは何のためにあるか分かっているんですか?」

「し、知らないわよ。貴方は知ってるの?」

「私は擬似人格ですよ? 分かる訳ないじゃないですか」


 ゴスロリファッションの響は舌を軽く出しながらウインクする。

 議論が進まないなと考えた響はもう一人の自分に話を振った。

 

「そちらの……修道服を着た私は分かるの?」

「大丈夫です……お二人なら主が情けなくても許します……」


 修道服を着た響は目を瞑りながら自身の両手を絡ませている。優しげな雰囲気が漂う少女を見た響は彼女なら解決してくれると思った。


「謝る以外の手段を教えて?」

「神に対し、懺悔するのです……さすれば、願いは叶うでしょう」


 ワイシャツを着ている響は返答を聞いて溜息をついた。

 二人とも使い物にならなかったからだ。

 響は長い溜息をつきながら妄想の世界から脱却した。


 スマホで時間を確認すると午後十二時半を指していた。

 約束の時間まで二時間を切った中、未だに解決策は出ない。


「迷惑がかかるかもしれないけど稲本さんに聞いてみようかな」


 響は自己解決を諦め、稲本を頼ることにした。自室を出ると、リビングで書籍を読みながらテレビでお笑い番組を流している稲本の姿があった。


「どうした、響。何か悩みでもあるのか?」

「稲本さん、お出かけする時に白ワイシャツにジーンズって変かな」


 響は困り顔になりながら小さい声で悩みを打ち明けた。直後、稲本は顔を本で隠しながら笑い声を出す。予想だにしない反応をする稲本に対し響は目を丸くした。


「ぶあっはっはっはっ! 会うのは友達だろう? 何時も通りの服で会えばいいんだよ。変に着飾らなくても、友達ならありのままを受け入れてくれるでしょ」

「稲本さん……ありがとう。私、そうしてみるよ」


 響は無意識に微笑んでから自室に戻っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る