探偵少女の情報調査 ②

 四月二十日金曜日、午後三時。授業が終わった響達は直ぐに教科書類をしまい部室へ足早に向かった。体調も悪くなく、頭もすっきりとしている。議論をするには最適と言える状態だ。


「皆来ますかね?」

「来るよ、きっと。だって、私達仲間じゃん」

「そうっすね」


 響の言葉を聞いた藤堂は嬉しそうに返事を返しながら部室へ向かう。

 周りの和やかな雰囲気を感じると、これから行うことが非現実的な行為のように感じられた。実際、このような調査を学生がすることは無い。


 誘拐事件に遊び気分で関われば最悪の場合、自分達の命を失う恐れがある。決して慢心することなく、しっかりと調査を行ったうえで行動に移す必要があるだろう。


 響が頭の中で昨日稲本と話したことをまとめていると、一人の少女が目に映った。黒が混じった茶髪の少女は響達を黒色に鈍く輝く両目で見つめていた。


「元気そうね。響、藤堂。昼休みに用意は済ませたから部室に入って」

「ありがとう、鈴佐ちゃん」


 響はお礼を伝えてから部室の中に入っていった。陽光が射し込む部室内は光と影をくっきりと照らし出していた。響は光が射し込んでいる方の席に座った。直後、隣に座っている桜江が質問してくる。

 

「海瀬さん、今日会議やるって聞いたんだけど何か事情知ってる?」

「うん、まぁ一応は」

「どんな内容なの? 私なんも聞いていないからわからないんだけれど、大丈夫そうかな?」


 響ははっと口を開いた。鈴佐には念のため何をやりたいか情報を送っていたが、他のメンバーには情報を送っていなかったのだ。そのことを見落としていた響は両手を合わせながら謝罪した。


「いいよいいよ、あんまりミステリー関連の力は無いから役には立てないかもしれないけれど、私なりに頑張ってみるから」

「桜江さん……本当にありがとう。助かるよ」


 響がお礼を伝えると、桜江は朗らかに笑った。数秒間静寂が訪れた後、鈴佐が口を開ける。


「それじゃあ、会議を始めましょうか。南村先輩は勉強が忙しいので今日は欠席するとの連絡を頂いているわ。だから、今回は私達五人で会議をするわね。司会進行は将棋ミステリー同好会部長、宮前鈴佐が担当させていただくわ。意見や質問がある場合は挙手するように」

「はいはい。じゃあ早速質問だけど、今日話す内容は何?」

「いい質問ね、桜江さん。今日話す内容は、一倉君の彼女さんが誘拐された事件を解決するにはどうするかという話よ」

「ふぅ――ん……へっ!? ゆ、誘拐!?」


 おっとりとした性格の桜江は目をまん丸と開きながら声を高くする。自分だけ聞かされていなかった内容の正体が誘拐事件の解決だと聞けば警察や探偵でない限り動揺するのは当然だろう。


「そんなの、私達で解決できるのかな……警察とかにした方が」

「現状難しいと思うわよ。私が思うに、警察が動くのは死体が上がったりしてから。それまでは中々捜査が難しいんじゃないかしら。警察は常日頃から事件対応しているし、この事件だけに対処していたら他の小さな事件が大規模に広がる恐れもあるからね」


 響は鈴佐の話を聞きながら軽く頷いた。鈴佐の言っていることは半分合っていて半分間違ってもいる。実際の所、警察は一応動いている。今の所は誘拐事件に対処するために被害者の情報を集めている段階だ。


「響、念のため聞きたいんだけれど今回の犯行は複数だと思う?」

「うん、私もそう思う」


 響は鈴佐の質問を肯定した。今回の事件は明らかに複数人で仕組まれたことだ。昨日一倉が見せたニュース記事を精査した結果、一週間のうちに七人失踪したと発表されている。一週間で一人一人単独で連れ去るのは困難に近い。何より、七人もいれば人質を延命させるにも一苦労である。仮に金銭面ではない別の何かだと仮定するなら明らかに複数人で動いた方が被疑者側には有利だろう。


 そんなことを頭の中で考えながら響は挙手した。


「鈴佐ちゃん。皆に見てもらいたい資料があるんだけれどいいかな」

「良いわよ。出してちょうだい」


 響は学校のカバンから資料を取り出した。

 その資料は、以前稲本に依頼していた調査結果だ。

 響は資料を見やすい位置に置きながら説明を始めた。


「この会社、紫陽花は今回の事件に密接に関わっています。成人していない学生を対象にアルバイトを雇っており、身辺調査と言う名の誘拐ほう助に加担させています。実際、今回バイト情報に掲載されていた資料には誘拐されている人物達のプロフィールが掲載されています。今回の誘拐事件は主に芸能学校に通っている生徒を狙ったものであるといえます」


 響の発言を聞いた鈴佐達は真剣な顔つきで相槌を打っていた。


「紫陽花に潜入しアルバイトに参加するという手法もとれますが、それは危険です。何せ、相手は連続誘拐を果たすことの出来る組織。それなりに戦闘技術を持っている人間が複数いると考えるのが妥当です。だから、私達は別方向で調査していきましょう」


 響はそう言いながらスマホを机の上に置いた。画面には昨日一倉に見せてもらった「クラブバーネス」が表示されている。


「現状、危険性が無い動き方をするとしたらクラブバーネスの佐倉井さんに接触するのが得策です。そのため、今週の日曜日に現地へ伺いたいです。そのための用意は、一倉君に任せても大丈夫かな?」

「はい、大丈夫です。コーチ陣にもしっかりと話を通しておきますね」

「ありがとう、一倉君。皆も予定は大丈夫かな?」


 響が鈴佐達に質問すると、快い返事が返ってきた。

 とんとん拍子に進んでいく話に響はありがたいなと感じていた。


 こうして、響達は日曜日にクラブバーネスヘ向かう事になった。

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