探偵少女は見舞いに行く ②
響と藤堂は一倉に案内され家の中に入った。靴を脱ぎ廊下をゆっくりと歩きリビングに着いた。リビングはそこそこ広く、外に繋がる大きなスライド式の窓と食卓で使う机と椅子がある。棚の上には大きなテレビが置かれており、歌番組が流れていた。
懐かしい雰囲気の歌が流れる中、一倉が響達に「何か飲み物いりますか」と質問してくる。妙に遠い言い回しをしてくる一倉を数秒見つめた後、「飲み物持っているから大丈夫だよ」と購入したペットボトルを見せた。
響の様子を見た一倉は頭を下げながら「そうですか」と告げた後、「藤堂君は何かいる?」と質問する。すると、藤堂は向日葵の様に笑いながら「僕オレンジ!」と元気良く発言した。年相応の笑顔を見せる藤堂の事を響は子供を見るような優しい眼差しで見つめていた。
「分かった。二人とも、そこの椅子に座っておいて」
響達は一倉にそう言われ椅子に腰かけた。一倉が飲み物を出している中、響は席に腰掛けながらテレビを眺めていた。映像に映っているアイドルグループの名前は聞いた事が無かったものの、センターに映っている同年代に見える黒髪の女性は目を惹いた。
「歌上手いなぁ、あの子」
「あ、奇遇だね。俺もそう思ったんだ。歌上手いよねぇ」
響がぽつりと呟いた言葉に対して、藤堂も同じような反応を見せる。何処か惹かれるその少女を見つめていると、飲み物を持ってきた一倉が響達を見つめながら映像について言及する。
「あの子、歌上手いですよね。ビブラートは繊細ながら伸びがあって、それでいて音程も全くブレない。初心者だからプロみたいなことは言えないけど、それでもやっぱ凄いですよね」
「うん、私も深いことは分からないけれど凄いと思うよ」
「俺もそう思うっすわ……あ、これ美味しい!」
「そりゃ良かった。ちょっと高い奴なんだよね、それ」
藤堂がその言葉を聞いた直後、「あ、そうなんだ……お金とか払った方が良い?」と申し訳無さそうな顔つきで返答する。その様子を見た一倉はフフッと笑いながら「別に大丈夫だよ。そもそも飲み物がいるか聞いたのは僕だしね」と言う。
数秒間無言が続いた後、一倉は二人の顔を見ながら決意を持った顔つきになった。
「実は、あんまり体調が悪い訳じゃないんです。熱も平熱ですし、咳もあまり出ているという訳じゃないんです。僕が休んだ理由、それは――前に海瀬さんに伝えた件について自分なりに調べてみようと思ったからです」
「え、どういうことっすか? 海瀬さんは何か事情を知っているんですか?」
一倉の言葉を聞いた藤堂はおちょぼ口になりながら響の方へ数回首を振った。瞬きが多くなっており、動揺している素振りを見せている藤堂を横目で見つめた響は目を閉じた後、一倉に質問する。
「一倉君。この件は私以外にも伝えても大丈夫な事なの?」
「……はい。短い期間しか付き合ってないですけど、やっぱり仲間ですから」
「……そっか。じゃあ、話してもらってもいい?」
「……分かりました」
一倉は相槌を一回打ってから話し始めた。
「藤堂君は知っていると思うけど、僕には彼女がいます。女性の名前は、
その言葉を聞いた響達は互いに顔を見合わせながら動揺する素振りを見せた。一般人とアイドルが付き合っていると言われればほとんど信じられる訳が無い。何より、一倉のようなぱっとしない人物があんなにテレビ映えする人物と付き合っているとは到底思えなかった。
「僕とさりなは小さい頃からの幼馴染でした。公園で遊んだり、一緒に勉強したり、花火を見たりしたごく普通の関係でした。僕に取ってそれは普通で、ずっと続いていく平穏だと思っていました。そんな時でした。さりながアイドルになると言う事を聞いたのは。その日から、僕がさりなと会える日は少なくなっていきました。だからこそ、会える日を大切にしていこうと思ったんです。そんな時間を過ごしていたからでしょうか。僕はさりなに対して友達とは違う感情を抱き始めたんです。そんな感情が膨らみ続けた僕は、ついにさりなに告白しました。結果は見事、上手く行きました。伝えて良かったなと僕は思いました。そして先週、僕達は再会する予定でした。
ですが――再会できませんでした。その理由は――さりなが、失踪したからです」
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