探偵少女の恋愛調査 ①

「みんな、一昨日はお疲れ様~~」


 学校指定の机に各自座ったことを確認してから、南村が笑みを振りまきながら和ませる口調で言葉を言う。


「みんなが頑張ってくれたおかげで、先輩の妹さんは昨日快眠できたそうよ~~これもみんなのお陰ね~~」

「あの、夢を見たとかみたいな話は?」

「あ~~海瀬さん~~ごめんなさいね~~それは教えてもらえなかったわ~~」

「……そうですか」


 響は持参していた水筒を軽く飲む。冷えた麦茶が口の中を潤した。鞄にしまい椅子に座る格好を整えた後、鈴佐の方を見る。


「とにかく、今回で私達の実績が一つ増えたわ! これからも私達が将棋ミステリー同好会として活動するためには、更に実績を積み上げることが重要よ!」

「そうっすねぇ……けど、実績になりそうな事件ってあります?」

「あるわよ! 例えば、今回解決した殺人未遂事件とか動画サイトに上がっているミステリー関連の情報だったりとか――」

「前者は危険ですし、後者は大半ガセだと思うんですけれど……」

「あぁもう、男子二人はうるさいなぁ! 文句じゃなくて建設的な意見を出しなさいよ意見を!!」


 やる気なさげな顔の男子二人に対し、鈴佐は腕組みしながら頬を膨らませる。部室内がぴりぴりした雰囲気に包まれる中、響が口を開いた。


「それなら、依頼箱を設置してみるのはどうですか?」

「依頼箱?」

「はい。例えばサイトとかを作って匿名でメール出来る様にするんです。そうすれば紙とかで見られる可能性も無いですし、何より鈴佐ちゃんが求めているミステリーが集まりやすいんじゃないかなって」

「なるほど……一理あるわね! けど、それならプログラマーがいるわね。プログラミングの経験がある人は、この中にいる?」


 鈴佐は目を輝かせながら周りを見た。しかし、手を挙げるメンバーは一人もいなかった。残念ながら、将棋ミステリー同好会メンバーの大半はプログラミング経験が無かった。サイト開発で用いるhtmlやcssはおろか、Hello world!で有名なC原語すら知らなかったのだ。


 響は鈴佐が怒るだろうなと感じていた。そして、実際に怒った。


「なんであんた達プログラミング経験無いのよ! 私だって最低限C言語とかpythonは用いたことあるわよ!?」

「えぇ……そんなこと言われてもなぁ」

「うん、だって受験要綱に無いし」


 男子二人のやり取りを見た鈴佐は溜息をつきながら「分かったわよ……それじゃ、当面の目標はプログラミングできる新メンバーを捜すことね」と目を細くしながら言った。


「よし。それじゃ、今日の話し合いは終わりにして将棋を指しましょうか」


 鈴佐は両手をパンと叩いてから将棋を指す準備を行い始めた。

 活動はあっという間に終わり、部活終了時刻になる。


 夕日が射し込む部室内でメンバーを集めた鈴佐は部活を終える挨拶を行った。

 

「それじゃ皆、よろしくね。それと、響と桜江は残ってね」

「え?」

「へっ?」


 響と桜江は同時にあっけにとられたような言葉を漏らした。その姿を見た男子達が「えっ、なんかやらかしたんすか?」「お二人とも、頑張ってください」と声をかけ帰宅していった。


 響は引き留められた理由が分からず困惑していたが、鈴佐の発言によって感情は大きく変化することになる。


「響、桜江! 一倉が誰と付き合っているか知るために尾行するわよ!!」

「……えっ、えぇ!?」


 響は突拍子の無いことを提案した鈴佐に驚いていた。ミステリーではなく、個人的なメンバーの恋愛事情を調査すると言い出したからだ。


「メンバーが誰と付き合っているか知る。これは私達にとっては必ず重要になるわ。えぇ、断言する。絶対に使えるわ!!」

「それって、鈴佐ちゃんが知りたいだけじゃ……」

「違うわよ! 断じて違うわよ!!」


 頬に汗を浮かべる響の疑いに対し、鈴佐は声を荒げて反論した。響は声色と表情から鈴佐が考えていることを大体見抜いたが、指摘しても面倒臭いことになると考えたため特に言う事を辞めた。


「桜江は時間あるかしら?」

「あるよ――! 私もこういうのやってみたかったんだよねぇ――なんか、探偵っぽいじゃん!!」

「探偵っぽいかなぁ……?」


 かくして響達は同好会メンバーである一倉を尾行することになった。

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