探偵少女と人が死ぬ夢を見る少女 ②
毛布にくるまっている少女、刀利は響達を怯えた顔つきで見つめた。黒色の瞳には濁りがあり、底知れぬ恐怖心を抱いていると理解させた。
「……すみません、私なんかのために皆さん来てくださって……けど……私の悩みは決して治りません。絶対に治らないんです」
刀利は下を向きながら涙を流した。その様子を見ていた響が優しい声色で話す。
「刀利ちゃん。力にはなれないかもしれないけれど、教えてくれないかな。貴方のこと。少しでもあなたが抱いている不安を解決したいから」
「……分かり……ました」
刀利は響の顔を見ながら頷いた後、自身のことを話し始めた。
「あれは今から10年前のことです。その日は私の誕生日でした。お父さんとお母さん、お姉ちゃんが祝ってくれることを喜びながら、私はお父さんの帰りを待っていました。
なのに――お父さんは深夜になっても帰ってきませんでした。火が灯らない
私が現実を理解出来ていない内に、お父さんの葬式が執り行われました。目を瞑ったお父さんは私が何度も呼びかけても決して反応しませんでした。
その時です。私は昨日見た夢を思い出したんです。その夢は……刑事をやっていたお父さんが、亡くなる光景でした。犯人の特徴は今も覚えています。20代程度の若い顔つきで175cm、黒色のレインコートを纏っていて右手には血の付いた鉄パイプを持っていました。
路地裏に連れていかれたお父さんは何度も何度も体を鉄パイプで殴られていました。手足は青くなり、茶色のコートには血が滲みだしていました。無抵抗のお父さんを、男は笑いながら殺しました。あの時に浮かべていた、不気味な笑顔。それが、私には忘れられなかったんです。
私は犯人の特徴を洗いざらい、お母さんに説明しました。語彙力が無い私のことをお姉ちゃんは真剣に聞き、補足してくれました。お母さんは信じられなかったようですが、万が一のことを考えて警察に行ってくれました。
それから数日後の事でした。犯人と思われる男が、夢の中で自殺したんです。車をダム近くに止めて、自ら身を投げたんです。そして、その時の夢は前回と違いました。息苦しさと、服の重さがあったんです。
息をしたくてもどんどん酸素が薄れていく。どんなにあがいても体が沈んでいく、死の感覚を私は味わったんです。翌日、ダムから死体が発見されたとニュースで報道されました。夢の中で男が自殺した場所と、同じところでした。その日から、私は眠ることが怖くなりました。
眠ったら、見ず知らずの人間が必ず死に、私は同じ苦しみを受けるようになったんです。勿論、死んだかどうかは確証を持つことは出来ません。でも、確実に死んでいると思うんです。じゃなければ、私が受けている痛みは何なんですか?
全てが幻想なわけですか?
そんなこと、ある訳ないですよね?
私は10年間もこの痛みを受け続けました。何度も何度も助けてくださいと心の底から神様に懇願しました。
お姉ちゃんも私の事を心配して家内安全の札を大量に買ってきて部屋に貼ってくれました。
それなのに、私の呪いは未だに無くならないんです。死体から湧き出てくる蛆の様に私の身体から必ずわきでてくるんです。私は、自らが呪われていると思いました。
何度も何度も見せてくるその悪夢は、私がお父さんを救えなかったから、お父さんが私を恨んでいるから、この呪いが私を蝕み続けているんです。お願いです、誰か、誰でもいいから、私を、助けてください」
その悩みは、響達より1つ下の女の子が抱えるにしてはあまりにも、あまりにも大きすぎる問題だった。人が目の前で死ぬのに助けられない罪悪感と、死ぬ痛みを少女は1人で感じ続けてきた。
10年と換算すれば、約3000回も少女は死に続けたことになる。刺殺、撲殺、毒殺、絞殺、自殺……これらの痛み以外も、少女は一人で受け続けただろう。そんな少女を、助けてあげられる人物は誰もいない。
少女は、孤独だ。一生、孤独なのだ。
「分かった。なら、私達が助けるよ」
「響ちゃん!?」
響は震える少女の両手を柔らかく掴みながら、真剣な眼差しで見つめた。響が抱いた感情は、探偵として名をあげたい、両親を殺した犯人に復讐したい、そんな思いとは違った。
「私は、貴方の夢の痛みを止めることは出来ないかもしれない。けれど、貴方が見てきた死ぬ条件を変えることは出来るかもしれない。そうだよね、皆?」
「……えぇ、そうね。響」
「……そうっすね。海瀬さん」
「……そうね、私達が集まれば、出来なくはないわ」
「……分かったよ、みんなそう言うなら、駄目下でもやりましょう」
将棋ミステリー同好会メンバーは各々返事をしていく。
その様子を見ていた唯花は南村に耳打ちした。
「……こいつら、良い奴らだな」
「ふふっ、そうでしょ~~まぁ、変人が多いけどねぇ~~」
「ふっ、だからこそかもな」
唯花は笑みを浮かべながら刀利を見る。
「刀利。1回だけ、試してみないか? お前の見た予知夢が変わるかどうか」
「お姉ちゃん……うん、分かった。試してみるよ」
刀利は真剣な眼差しで将棋ミステリー同好会メンバーを見つめながら、自分が見た夢の内容を話し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます