4枚目

 それから徐々におじいちゃんのいない生活に慣れていった。そうして春が近づき、僕らの中学2年目が終わりに近づいてきていた。田舎なこともあり高校の選択肢は少なかったけれど、この町を出て遠くに行く学生もいた。僕は君はその1人だと思っていて、それを君に伝えた時は怒らせてしまったよね。でもまさか高校も僕なんかと一緒にいてくれようとしていたなんて考えてなかったんだよ。君は僕よりも賢いし家が裕福だから、少し遠いけれど寮があるお嬢様学校…あそこに行くのだとばかり思っていた。それを伝えた時には目を見開いた後、苦虫を噛み潰したような顔をして「お母さんとお父さんに聞いたのね」と言ったね。それに僕は素直に頷いた。

 君と仲良くしているのもあって、君の両親にはよくしてもらっていたしおじいちゃんが亡くなった後も僕のことを気にかけてくれていた。まぁつまりはよくしてもらっていたわけだ。君みたいなお嬢様に近づいて仲良くしていることをよく思わないやつらもいた。金目当てだとかゴマすりだとかくだらない理由で僕のことを嘲るやつらだ。君はこのことに憤っていたようだけど、僕は至極当然の考えだと思っているよ。くだらない理由、なんて書いておいてこんなこと言うのはおかしいかな。でもね、両親がいなく…しかも祖父までも失った天涯孤独な僕が、地元で有名な家の子と仲良くしているなんて何か裏があるのではないかと疑い、下世話なことを考えては噂する…それが人間の汚いところであり、人間らしさというものでもあるわけだ。まぁ…僕はあまり嫌いではないよ、そういうところがあるのも人間だから。僕も汚い人間だから…。あぁ、話が脱線しすぎた。僕が言いたいのは、そういったことがあるかもしれないのに僕のことを信頼して娘である僕のことを任せてくれるくらい、君のご両親は優しい人だった。おじさんが僕の後見人にはなってくれたが、おじさんにも家族がいて隣町に住んでいたものだからそこに移り住もうという話が上がったのにも関わらず、僕があの家にこだわったからおじさんが一緒に暮らすことにしてくれたけれど実質1人暮らしの僕のことを気遣ってくれていた。僕のことを可愛がってくれていたということがよく伝わっていた。だから、君のことについての相談も受けていたんだよ。君はそれが気恥ずかしいようで気に食わないようだったけれど。


 それで、君の両親からその学校の話も上がっていたし学校の方針的にも君に合うのではないかと考えていたから勝手にそう思い込んでしまっていたんだ。あぁ、僕がそう思い込んでいたと分かった時君は怒っていたが、小さな子が拗ねるような気に食わないといった様子がすごく可愛らしかったことをよく覚えている。かわいい、だなんて言ったら君は顔を赤くさせてさらに怒ってしまうだろうから当時は謝ったが、そんなことを僕は思っていたんだ。知らなかっただろう。言っていないのだから当たり前だけど。…君にはあまり「かわいい」や「きれい」ということを伝えられていなかったような気がする。でも僕は君が思っているよりも君に対して日常的にそんなことを思っていたんだよ。このことについて君は気持ちが悪いとは思わないだろうし、喜んでくれるとは思うけれど…それは、男女に関する感情とかではなく友情としてなのだろうなと思う。でも僕は君が特別だったから常に思ったときに伝えるということができなかったんだ。特別…それが恋慕だったとは言い切れない。僕の生きる意味になってくれた君だからこそ”特別”なのだから。少なくとも、当時の僕に恋慕の気持ちはなく君を”特別”に思っていた。そもそも僕の唯一の友人なんだから、元々特別ではあったのだけれどね。


 結局僕と君は高校受験が差し掛かる中学3年生になった時、同じ高校を目指すことを約束したね。遺産やおじさんからの援助もあるけれどあまりお金をかけたくなかった僕は公立しか狙っていなかったから、それに君を合わせるのは申し訳なかった。だからせめて地元の一番頭のいい高校に行けるように頑張って勉強することを決めたよ。君には将来のためにもしっかりと学びたいからなんて言ったが実は嘘だったんだ、ごめんね。それに、その方が君の両親も喜ぶのではないかと思ったんだ。やっぱりどうしても外聞というものがあるからね、場所も場所だから名門校なんて大げさなことまでは言えないけれど、進学校の方が周りの目もいいだろう。そんな打算的な考えがあったなんて、君は気付いていたのかな。きっと、気付いていなかったのだろうね。


 すごいなぁ…君に向けての想いをただ、だらだらと思いついた言葉を連ねているだけなのに、色んなことを思い出し、当時に戻ったような感覚がする。そうか、そうなのか。


 僕の人生は、”君”でできているんだね。

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