2枚目

 君と初めて会った時は小学校だったね。少人数だからクラスはひとつしかないのに、僕も君もクラスに馴染めていなかった。君はいい家の出だから、僕は両親がいなかったから。そんな理由で。そんな小さくて大きな理由で。そうしてどこかクラスから浮いてる僕たちはなんとなく一緒になって、君はいつも明るく僕を照らしてくれていた。僕は君に何かできていたのだろうか。臆病な僕は、君の隣にいることしかできなかった。君と一緒に勉強をして、君と一緒に遊んで、君と一緒に怒られて……すごく楽しい時間を過ごした。嬉しいことがあった時もつらいことがあった時もいつでも僕たちは一緒にいた。


 そう、あの時も君は僕のことを気にして様子を見てくれたね。初めて僕が学校を無断欠席した時だ。

 両親のいない僕にはおじいちゃんしかいなかった。優しく、そして厳しく僕を育ててくれたおじいちゃん。父も母もいなかったけど寂しさなんて感じさせないくらい僕を愛情たっぷりに育ててくれていた。君も知っているだろう、あの人の優しさを、笑顔を頭を撫でてくれるその大きな手を。…もう、忘れてしまっているかもしれないが。

 雪の降るある日の夜、いつものように過ごしていた。朝昼は学校に行って君と話して、放課後は一緒に勉強をして…そんな日常だった。そう、いつも通りの日常だったんだ。いつも通り帰っていつも通りおじいちゃんとご飯を食べて…それだけなのに、どこか不安で落ち着かなかった。なぜかおじいちゃんが遠くに行ってしまいそうで、どこか遠くに飛んでいってしまいそうで…。虫の知らせだったのだろうね。

 いつも通り就寝しようとした時、僕はおじいちゃんに一緒に寝たいと言った。おじいちゃんは不思議な顔を一瞬見せた後、どこか悟ったような表情で微笑んだ。きっとおじいちゃんはも分かっていたのだろう、自分が長くないことを。高校生にもなって一緒に寝たいとねだる孫を優しく微笑んで受け入れてくれた。布団をぴったりとくっつけて布団に潜り込む。隣にいるのに、やっぱり安心できなくておじいちゃんの手を握った。そうしたらおじいちゃんはゆったりと起き上がって僕のことも起き上がらせた。そして僕にたくさん話をしてくれたんだ。「優しい子だから傷つくことがたくさんあるかもしれないけれど、お前はたくさん愛されて生まれてきて、私に愛されて育ったんだ。それだけは忘れてはならないよ。強く生きろとは言わない。ただ、人生は選択の連続だ。自分で選択して、それで何が起きてもその選択に責任を持てて、後悔もできる人間になりなさい。私はお前がどんな選択をしたとしてもお前を愛しているよ。」そうやって優しい声色で話してくれた。お互いにこれが最期だと分かっていたんだ。おじいちゃんに抱きしめられた時、小さくなった背中に驚いた。あんなに大きかった背中が、手が、おじいちゃんが…こんなに小さくなっていたのかと。おじいちゃんが小さくなったのか、それとも僕がそれだけ大きくなったのかもしれない。それでも、それでも……僕にとってのおじいちゃんは大きな人だった、人間として、僕の中の存在として、大きな人だった。

 ある程度落ち着いた後、僕たちはまた布団に潜り込んで、手をつないだままたくさんの思い出話をした。君とのことも話したよ。そうして、どんどんと声が小さくなっておじいちゃんは眠りについた。僕はそのまま起きて眠りについて冷たくなっていくおじいちゃんをただただ見つめていた。その顔は本当に幸せな夢を見て眠っているだけのようで、僕は眠ることもせずにただ茫然と見つめることしかできなかった。朝、一緒に登校するための待ち合わせに僕が来ないことを不審がった君がくるまで、そうしていたんだ。


 誰にも、君にも話したことがないこのことについてこの手紙に書いたのは、本当は誰かに話したかったのか、それとも君宛のこの手紙を誰にも出すつもりがないからなのか…一体どっちなんだろうね。

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